重症複合免疫不全症、国内初の大規模新生児マススクリーニング検査で2人の赤ちゃんを救命

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 愛知県で出生した新生児を対象に重症複合免疫不全症(SCID)に対する新生児マススクリーニング検査を実施
  2. 約14万人を検査しSCIDと早期診断できた2人ついて、造血細胞移植による救命に成功
  3. 網羅的遺伝子解析を組み合わせることで、SCID以外の新生児免疫不全症の早期診断にもつながった

重症複合免疫不全症(SCID)に対する新生児マススクリーニング検査

名古屋大学を中心とした研究グループは、愛知県で生まれた新生児に対する重症複合免疫不全症(SCID)の新生児マススクリーニング検査を行い、約14万人の検査を実施、2人の患者さんの診断と救命につなげることができたことを報告しました。

SCIDは、細菌やウイルスなどのあらゆる病原体から体を守るTリンパ球が、生まれつきうまく機能せず、新生児期に命に関わるような重い感染症を発症してしまう原発性免疫不全症候群の一つです。根治的な治療法としては、造血細胞移植がありますが、早期に行われなければ、多くの場合1年以内に命を落とします。

海外ではTRECと呼ばれる、正常なTリンパ球が作られるときにできる小さなDNAを血液検査で測定する検査が行われています。米国のカリフォルニア州では、約300万人の新生児においてTRECのSCID新生児マススクリーニング検査が行われ、5万人あたり1人の新生児をSCIDと診断することができたことが報告されています。また、Bリンパ球が産生される際につくられるKRECも、海外のいくつかの国や地域において検査に用いられていましたが、偽陽性率(検査で誤って異常があると判断した割合)の高さと費用の増加から、KRECを同時に測定することについては議論が分かれていました。

一方、日本においては、SCIDは公的な新生児マススクリーニング検査の対象疾患ではなく、家族に発症例がある場合など以外は、重篤な感染症を発症してから発見・診断されることがほとんどでした。

研究グループは、SCIDの早期診断と治療につなげるため、2017年4月から愛知県内で出生した新生児を対象に有料のオプショナルスクリーニング検査としてTREC測定によるSCIDの新生児マススクリーニング検査を開始しました。また、2020年4月からは、KRECをTRECと同時に測定する取り組みを行い、各検査の有用性についても検証を行いました。スクリーニングで異常値が見られた場合は、精密検査としてリンパ球サブセット解析と免疫不全症に関する網羅的遺伝子解析が行われました。

SCIDと診断された2人は、速やかに造血細胞移植治療へ

結果として、2021年12月までに13万7,484人の新生児に対して、スクリーニング検査を行い、異常値を認めたうち2人についてSCIDの、10人についてSCIDではないTリンパ球もしくはBリンパ球の欠損を伴う免疫不全症(non-SCID PIDs)の診断につなげることができました。SCIDと診断された2人については、重篤な感染症を発症することなく生後数か月以内に臍帯血移植(CBT)が行われました。

2017年から行っていたTREC検査と、2020年から導入したTREC/KREC検査を比較したところ、TREC/KREC検査を行ったほうが、偽陽性率が低いことがわかりました。また、スクリーニング検査に網羅的遺伝子解析を組み合わせることで、non-SCID PIDsの診断にもつながることもわかりました。

愛知県で行われたSCIDに対する新生児マススクリーニング検査は、国内の他の地域にも広がりつつあり、今後、公的マススクリーニングの対象疾患としてSCIDが一日も早く指定されることを期待していると研究グループは伝えています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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