従来のステロイド治療は投与量の調節が難しい
国立成育医療研究センターは、先天性副腎皮質過形成症(CAH)の遺伝子治療につながる手法を開発したことを報告しました。
CAHは、酵素が欠損するなどの原因により副腎皮質で生命の維持に必要なホルモンが正常に作られなくなり、低血糖、循環障害、女児外性器の男性化などのさまざまな症状が見られる遺伝性疾患です。CAHは21水酸化酵素欠損症や11β水酸化酵素欠損症など6つのタイプに分かれており、それぞれ欠損する酵素が異なります。CAHの治療には、ステロイド薬の投与が行われますが、この治療は生涯にわたって投与が必要である上、副作用を最小限にするためのステロイド薬投与量の調節が難しいことが課題になっています。
これまでに、研究グループは酵素欠損の遺伝子治療手法の開発を進め、2016年にCAHの中でも頻度の高い21水酸化酵素欠損症の遺伝子導入治療の動物実験に成功しました。この方法は酵素欠損した細胞にAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターと呼ばれる技術を用いて酵素の遺伝子を導入し、細胞が酵素を作るよう人工的に操作するものです。今回、研究グループは、CAHの6つのタイプすべてに同様の遺伝子治療が有効であるかの検討を進めました。
研究グループは11β水酸化酵素欠損症の患者さんの細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製し、その上で、iPS細胞を11β水酸化酵素の欠損した副腎皮質細胞に分化させました。この細胞にAAVベクターを用いて11β水酸化酵素の遺伝子を導入し、酵素活性が正常化するかを検討しました。さらに動物実験により遺伝子導入が酵素活性の正常化につながるかを確かめました。
本来作られるべきホルモンが正常に作られることを確認
その結果、AAVベクターでの遺伝子導入により、11β水酸化酵素欠損症患者さんのiPS細胞から作られた副腎皮質細胞が酵素活性を回復させ本来作られるホルモンが正常に作られることがわかりました。また、動物実験での遺伝子導入によって、病気の治療効果が長期間見られることも確認されました。
研究グループによると、この遺伝子治療が臨床応用できれば、ステロイドの投与量が減らせる可能性があり、副作用の軽減や、ステロイドの飲み忘れによる副腎不全の回避につながる可能性があると指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)