血友病Bの遺伝子治療薬「HEMGENIX」を米国FDAが承認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 血友病Bの現在の治療では、第IX因子の補充療法を生涯定期的に受け続ける必要がある
  2. 単回投与の遺伝子治療薬が、条件に該当する成人血友病B患者さんに対して米国で承認
  3. 「HOPE-B試験」に基づく承認、新たな治療選択肢として期待

肝臓の細胞で持続的に第IX因子を作れるようにする遺伝子治療薬

米CSLベーリングは11月22日、米国食品医薬品局(FDA)により、血友病Bの成人患者さんに対する、単回投与の遺伝子治療薬「HEMGENIX(R)」(etranacogene dezaparvovec-drlb)が承認されたことを発表しました。この、世界初の血友病Bへの遺伝子治療の適応となるのは、「第IX因子の予防的投与を受けている」「現在もしくは過去に命に関わる出血を経験した」「重篤な自然出血を繰り返している」のいずれかに該当する、成人血友病B患者さんです。HEMGENIXは現在、他の規制当局による審査を受けており、同社は、対象となる患者さんにできるだけ早くこの治療を提供できるように、準備を進めています。

血友病Bは、主に肝臓で産生される血液凝固因子の「第IX因子」が必要な分だけ作られず、血が止まりにくいという症状がある遺伝性疾患です。第IX因子が足りないことで、自然出血や、運動能力の低下、関節の損傷、激しい痛みなどを経験する可能性があります。中等度から重度の血友病Bの治療として、予防的に点滴で第IX因子の補充を受ける治療法がありますが、この治療法は有効である一方で、生涯にわたって点滴を受け続ける必要があります。

HEMGENIXは、血友病Bの患者さんの体内で持続的に第IX因子を生成できるようにする遺伝子治療薬です。通常より5倍~8倍活性の高い第IX因子を作るように設計された遺伝子を、アデノ随伴ウイルス(AAV)5ベクターという種類の遺伝子の運び屋を用いて肝臓の標的細胞に運びます。運ばれた遺伝子は標的細胞に残り、安定して機能的な第IX因子を作り続けますが、ヒトのDNAの一部として組み込まれることはありません。

年間出血率が54%減少、予防的補充療法も中止可能に

今回のFDAによる承認は、HEMGENIXの安全性と有効性を評価するために、現在進行中の、第3相の多国籍非盲検単群試験である「HOPE-B試験」の結果に基づいています。この試験は、血友病Bにおける遺伝子治療の、過去最大の臨床試験です。対象患者さんは54人、AAV5に対する中和抗体が体内に存在するかどうかは、除外条件とされませんでした。

今回の結果では、HEMGENIXによる治療後6か月で平均39%、24か月では36.7%の第IX因子活性が得られることが示されました。治療後7~18か月間の年間出血率(ABR、平均調整年換算出血率)は、導入期間として第IX因子の予防的補充療法を6か月間受けていた時に比べて54%減少しました(平均4.1回/年から1.9回/年に減少)。さらに、HEMGENIXによる治療を受けた患者さんの94%(54人中51人)は、第IX因子の予防的補充療法を中止し、これまでのように定期的な予防薬の点滴は受けていませんでした。

主な副作用(発現率5%以上)は、肝酵素上昇、頭痛、特定の血液酵素値の上昇、インフルエンザ様症状、輸液関連反応、倦怠感、吐き気、悪心で、重篤な副作用は報告されていません。

同社CEOのPaul Perreault氏は、「この重要な成果を出すのに欠かせなかった試験参加者、科学者、研究者の皆さんに感謝するとともに、HEMGENIXが血友病Bの方々にプラスの影響を与えることを期待しています」と、コメントしています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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