ウィルソン病の患者さんからiPS細胞を作製
理化学研究所の研究グループは、肝臓を始めとする全身の臓器に症状が現れる難病の一つ、ウィルソン病の患者さんの細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作りました。そして、これを肝臓の細胞に分化させることにより、この病気によって細胞に引き起こされる状態を捉えることに成功したこと、また、レチノイドと呼ばれる物質がこの病気の症状を緩和できることを見出したと発表しました。
ウィルソン病は、ATP7B遺伝子と呼ばれる遺伝子が変異することで起こる遺伝性疾患で、この遺伝子に変異があると、その影響により体内に必要以上の銅が蓄積し、肝臓や脳など全身に障害が起こります。従来、食事制限のほか銅を排出する薬などで治療が行われましたが、薬には副作用もあり、新しい治療法が求められていました。
こうした課題から、この病気の詳細な状態を捉えて新しい治療法につながる薬剤の探索を行うため、これまで実験動物や培養細胞などを使ってさまざまな研究手法が開発されてきました。しかし、動物とヒトとの違い、患者さんごとの遺伝子変異や遺伝的な背景の違いなどのために研究の進展には困難な部分が多くありました。
研究グループは、ATP7B遺伝子に複数の変異を持つ4人のウィルソン病の患者さん由来のiPS細胞、そしてゲノム編集により人工的にATP7B遺伝子を変異させたiPS細胞を作製しました。それらを肝臓の細胞へと分化させることで、この病気の状態を再現しました。
ウィルソン病で認められる異常を緩和する方法を特定
こうして、ATP7B遺伝子に複数の変異を持つ患者さん由来のiPS細胞が作られました。このiPS細胞を肝細胞に分化させ、特徴を調べたところ、ウィルソン病の診断基準としても使われるセルロプラスミン(Cp)の低下が見られ、ウィルソン病の特徴を再現していました。
これらの細胞を使った分析に基づき、肝細胞の異常(Cpの低下)を緩和するための方法を検討したところ、オールトランスレチノイン酸(ATRA)やレチノイドと呼ばれる物質が発見されました。また、ATRAは肝細胞に脂肪が溜まる異常で見られる活性酸素を減らすこともわかりました。今後、iPS細胞の研究を進めることで、ウィルソン病の治療法の開発につながる可能性がありそうです。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)