ALSの外来診療「ALSクリニック」、緊急入院の抑制と生存率向上に効果

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 多職種による外来診療「ALSクリニック」が患者さんに及ぼす影響を調査
  2. 緊急入院の抑制と生存率の向上に良い影響があることが判明
  3. ALSの外来診療の形態見直しに期待

欧米諸国では治療の一つと考えられている「ALSクリニック」

東邦大学を中心とした研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんに対する、多職種による外来診療「ALSクリニック」が、ALS患者さんの緊急入院の抑制と生存率の向上に影響を及ぼすことを明らかにしました。

ALSの症状の進行に伴って生じるさまざまな医療的・社会的な問題に対し、多職種の専門家が連携した外来診療が推奨されています。一回の外来診療で多くの問題を解決するALSクリニックは、患者さんの生存期間延長、生活の質(QOL)の改善、さらには緊急入院回数減少につながるとされ、欧米諸国では治療の一つとして考えられています。しかし、日本では、医療費や医療スタッフの確保などを理由に、十分に普及していませんでした。

同大医学部内科学講座神経内科学分野は、2017年2月、同大医療センター大森病院にALSに対する多職種連携による外来診療としてALSクリニックを開設。診療対象は、同院に入院または通院している全てのALS患者さんです。医師(脳神経内科医、呼吸器内科医、消化器内科医、リハビリテーション医、精神科医、緩和ケア医など)、理学療法士、作業療法士、言語療法士、専門看護師、ソーシャルワーカー、栄養士、治験コーディネーターなどのさまざまな分野の専門家が診療チームを構成し、診療をする外来です。同クリニック開設時、日本ではALSに対する多職種連携診療が十分に普及しておらず、また、その効果も十分に解明されていませんでした。

ALSクリニック開設前後で比較して、患者さんへの影響を調査

今回研究グループは、2014年3月1日~2020年2月29日の間に同院を受診したALSと診断された患者さん、またはALSが疑われた患者さん128人を対象に、ALSに対する多職種連携診療が及ぼす効果を解明するため、緊急入院、生存率を調査しました。

ALSクリニック開設の2017年2月を基準とし、2014年3月1日~2017年2月28日に受診した患者さんのグループ(General neurology clinic群、以下GNC群)、2017年3月1日~2020年2月29日に受診した患者さんのグループ(ALS clinic群、以下AC群)の2群に分け、緊急入院の発生率、生存率などを調査しました。最終的に90人の患者さん(GNC群32人、AC群58人)を対象に解析しました。

ALSクリニック開設後の患者さんのグループ、生存率が有意に向上

その結果、緊急入院件数は、GNC群11件、AC群9件とAC群で減少傾向を示しました。2回以上の緊急入院は、GNC群3件、AC群0件で有意差が認められました(p<0.05)。緊急入院理由は、両群ともにALSの進行に伴う呼吸器疾患(誤嚥性肺炎、呼吸不全)による入院が半数を占めました。緊急入院の発生率では有意差を認めませんでしたが(p=0.33)、生存率では有意差が認められました(p=0.01)。

研究グループは、「ALSクリニックが十分に普及していない日本においても、欧州と同様の効果がみられたことから、ALSの外来診療の形態が見直されることが期待されます」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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