家族性高コレステロール血症における低頻度のバリアント関与を解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の4割では原因となる遺伝子が不明
  2. 既知の病的バリアントを持たない患者さんの解析からAPOB遺伝子のp.(Pro955Ser)というバリアントの関連を発見
  3. 1対のAPOB遺伝子の両方にp.(Pro955Ser)を持つと、培養した肝臓の細胞のLDL取り込み率が低下

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の4割は原因遺伝子が不明

国立循環器病研究センターの研究グループは、家族性高コレステロール血症の新しい病態メカニズムを解明したと発表しました。APOB遺伝子に低頻度で発生するp.(Pro955Ser)バリアントが関与するケースの詳細を論文報告した内容です。

家族性高コレステロール血症は、生まれた時点から血中LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の値が高く、皮膚や腱に黄色腫と呼ばれる隆起が出現する特徴があります。この病気では、コレステロール蓄積による動脈硬化が進み、心臓に血液を供給する血管が狭くなることで若くして狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患にかかりやすくなります。この病気において、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体と呼ばれる状態の人は300人に1人の割合で存在すると知られています。

家族性高コレステロールヘテロ接合体は、その原因として、いくつかの低頻度に存在する病的バリアントが知られています。代表的なものが、血液中のLDLを取り込むためのLDL受容体(LDLR)の遺伝子と、このLDLRという受容体の分解に関わる遺伝子であるPCSK9遺伝子、そしてLDLRという受容体に結合するタンパク質(リガンド)のAPOB遺伝子です。日本ではAPOB遺伝子の変異による家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体は少なく、PCSK9遺伝子やLDLR遺伝子の変異によるケースが多くを占めています。一方で、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の40%では原因となる遺伝子が不明でした。

今回研究グループは、新しい原因または関連している遺伝子を明らかにするために、主要な病的バリアントが確認されていない家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の122家系を対象として、エクソーム解析と呼ばれる詳細な遺伝子解析を行い、新しい原因遺伝子を調べました。

低頻度のバリアントが遺伝性疾患の原因になり得る

こうした解析から明らかになったのが、APOB遺伝子のp.(Pro955Ser)バリアントです。

エクソーム解析の結果、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の原因となる新しい遺伝子は見つかりませんでした。次に、これまで知られている原因遺伝子の一つであるAPOB遺伝子に着目したところ、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の家系にはAPOB遺伝子のp.(Pro955Ser)という低頻度のバリアントが一般的な日本人よりも高い頻度で存在することを発見しました。

そこで培養肝細胞を使った実験でp.(Pro955Ser)バリアントを持つ場合の影響を検証したところ、このバリアントを1組の遺伝子の両方に持つ場合には、APOB遺伝子の既知の病的バリアントを1組の遺伝子の片方のみで持つ場合と同等にLDL取り込み率が低下することを確認しました。

今回の結果より、研究グループは、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体だけではなく、遺伝性疾患全般において低頻度で発生するバリアントの関与が考えられると指摘します。今後、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の低頻度で発生するバリアントについて研究を進めると説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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