ブタのALSモデル作出に成功、ALS治療開発の前進に期待

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. よりヒトに近い大型実験動物として、ブタのALSモデルを作出
  2. ヒト患者さん同様にmisfolded SOD1が蓄積していることを確認
  3. ALSの遺伝子・細胞治療の前臨床研究の前進に貢献

解剖学的特性がよりヒトに近いALS動物モデルが必要

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を引き起こす原因遺伝子の一つである、ヒトのスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異体をブタに導入した、「ALSモデルブタ」の作出に成功したことを発表しました。

家族性ALSの原因遺伝子として、SOD1遺伝子が見つかっています。これまで、変異SOD1を持つ遺伝子改変マウスやラットは、ALSのモデル動物として、治療法開発に用いられてきました。しかし、マウスやラットなどのげっ歯類の体のサイズは、ヒトと異なるため、実際のヒトでの遺伝子・細胞治療へとそのまま進む前に、体のサイズや構造など解剖学的特性がよりヒトに近い動物モデルでの確認が必要とされていました。研究グループは、この課題の解決策として、遺伝子・細胞治療の開発に用いることができる大型実験動物として、ブタのALSモデルを作り出すことを計画しました。

作出したALSモデルブタ、無症候性段階でALS病態

研究グループは、ヒトの変異SOD1遺伝子(専門的に言うと、ヒトSOD1プロモーターとともにG93A変異を持つヒトSOD1遺伝子座のゲノム構造)を、遺伝子工学技術を用いてブタに導入してモデルを作出。続けて、開発したモデルがALS病態を反映しているかを確認する検証が行われました。

まず、無症候性段階におけるブタALSモデルで、ALS病態が存在するかどうかを調べました。ブタALSモデルの脊髄前角の運動神経細胞を、通常(野生型)のブタと比較すると、細胞体が小さく数も減少傾向が見られ、これらは、ALS患者さんでも見られる、運動機能障害につながる変化と考えられました。

SOD1遺伝子関連性のALS患者さんに見られるmisfolded SOD1の蓄積を確認

SOD1遺伝子関連性のALS患者さんやげっ歯類モデルの脳神経において、変異型SOD1タンパク質は異常な折り畳み構造をとった「misfolded SOD1」として蓄積することが知られています。Misfolded SOD1は、強い神経細胞毒性につながるとして知られる重要なALS病態であり、治療法開発における標的と考えられています。これを踏まえ、misfolded SOD1がブタALSモデルの脊髄に蓄積しているかを調べました。

その結果、このブタALSモデルの脊髄および神経根(脊髄から左右に枝分かれする細い神経)内で、misfolded SOD1の蓄積が確認され、軸索変性が見られました。これらのことから、今回作出されたブタは、ALSの遺伝子・細胞治療の前臨床研究に適合する大型実験動物として、今後活用されることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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