多発性嚢胞腎の病態解明のため、より実際の腎臓に近いモデルを開発
米国国立衛生研究所(NIH)は、従来の2つの研究技術を組み合わせて開発した新しい方法により、多発性嚢胞腎の新たな発症メカニズムが発見されたことを発表しました。この研究は、米ワシントン大学の研究グループによるものです。
多発性嚢胞腎は、世界中で数百万人が罹患している遺伝性疾患です。多発性嚢胞腎では、腎臓にある尿細管と呼ばれる小さな管が膨らみ、数十年かけて嚢胞(液体の入った袋)が形成されます。この嚢胞が大きくなってくると、周辺の組織を圧迫し、腎機能の低下や腎不全を引き起こします。多発性嚢胞腎の原因となる遺伝子は複数特定されていますが、嚢胞がどのように形成されるかを含め、まだ不明な点が多くあります。
従来、シャーレの中で、腎臓の機能を模倣する立体的な組織「オルガノイド」を細胞から培養して作り、これを用いて数週間という短期間で尿細管での嚢胞形成を再現することはできていました。しかし、多発性嚢胞腎における嚢胞形成のプロセスは複雑なため、オルガノイドでは、解析でわかることに限界がありました。また、有用な動物モデルはありますが、その研究結果をヒトの病気に置き換えるのは、まだ難しい状況です。
尿細管には常に体液が通過しており、その量は体液全体の約25%です。嚢胞の発生には体液の流れが重要と考えられていますが、こうした体液の通過を、オルガノイドのみで再現し、検証することはできませんでした。
そこで研究グループは、マイクロ流体チップという、微細な流路を再現できる小さな基盤の技術と、オルガノイド技術を組み合わせ、尿細管を体液が通過する状況を再現する「オルガノイド・オン・チップ」を開発しました。
尿細管からのブドウ糖吸収が嚢胞の成長に重要だった
研究グループは、多発性嚢胞腎のオルガノイド・オン・チップモデルに、水、糖、アミノ酸、その他の栄養素を組み合わせたものを加えました。すると、嚢胞が比較的早く大きくなることを発見しました。これを解析した結果、嚢胞がブドウ糖を吸収し、その上を通過する液体から水分を取り込んで、嚢胞を大きくしていることが判明しました。さらに、ブドウ糖の輸送を阻害する化合物を添加すると、嚢胞が大きくなるのを抑制できることも示しました。ブドウ糖輸送の阻害剤は、他の腎臓病の治療薬として開発が進められています。
研究グループは次に、多発性嚢胞腎のモデルマウスに蛍光グルコースを投与し、マウスの体内でも嚢胞にブドウ糖が取り込まれることを確認しました。
一般にブドウ糖は腎臓で吸収されますが、これまでブドウ糖の吸収と多発性嚢胞腎における嚢胞の形成は関連がないとされてきました。しかし今回、オルガノイド・オン・チップモデルを用いることで、嚢胞の形成がブドウ糖の吸収に依存しているということが、新たにわかりました。
多発性嚢胞腎の病態メカニズムを理解することは、新しい治療法の開発への第一歩です。今回、オルガノイド技術とマイクロ流体チップ技術を組み合わせたオルガノイド・オン・チップで、より実際の腎臓の環境に近いモデルを再現できることが示され、今後の薬剤開発等に期待が寄せられます。(遺伝性疾患プラス編集部)