2つの異なる希少遺伝性疾患「FSHD2」と「アルヒニア」に共通の原因タンパク質を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 筋ジストロフィーの一つFSHD2と鼻に障害が起こるアルヒニアは症状が全く異なる
  2. 2つの疾患に共通して、DUX4という毒性タンパク質が原因になると判明
  3. 症状の違いなど不明なメカニズムが今後解明されれば、治療法開発につながる可能性

原因遺伝子は共通だがアルヒニアの原因タンパク質は不明だった

米国国立衛生研究所(NIH)は、体内で作られる有毒なタンパク質「DUX4」が、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー2型(FSHD2)と、アルヒニア(Arhinia)という、2つの異なる希少な遺伝性疾患に共通の原因である可能性を発見したと発表しました。この研究は、米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)を中心とした研究グループによるもので、今回の発見は、治療法の開発につながる可能性があるものです。

FSHD2は、遺伝性の筋ジストロフィーで、進行性の筋力低下を引き起こします。アルヒニアは、外鼻と嗅神経(嗅球・嗅索)の発達が妨げられる、非常にまれですが重篤な疾患です。どちらの疾患も、SMCHD1遺伝子の変異によって引き起こされることがわかっていますが、症状は大きく異なります。

FSHD2では、筋肉細胞を死滅させるDUX4が体内で過剰に作られ、これが進行性の筋力低下につながるということが、既にわかっていました。一方で、DUX4が、ヒトの鼻の形成に関わる細胞をも死滅させるかどうかはわかっていませんでした。

研究グループは、変異のあるSMCHD1遺伝子とウイルスなどの環境要因との組み合わせによって、DUX4が作られるようになる可能性があることを発見しました。そして、これが原因で、アルヒニアが発症する可能性があると考えました。

DUX4はFSHD2では筋肉細胞を、アルヒニアでは鼻の細胞を死滅させると判明

そこで今回、研究グループは、この2つの異なる病気の患者さんの細胞に由来する幹細胞を用いて、鼻などの体の感覚器官の発生につながる細胞である「頭蓋プラコード細胞」について調べました。すると、プラコード細胞が形成され始めると、DUX4も産生され始め、プラコード細胞に細胞死が引き起こされることがわかりました。

今回の研究で、DUX4が、筋肉細胞と同様に、ヒトの鼻の形成に関わるプラコード細胞の細胞死にも関与していることが示されました。しかし、なぜFSHD2では鼻の細胞が死なないのか、なぜアルヒニアでは筋肉の細胞が死なないのかは、まだわかっていません。

NIEHSの小児神経内分泌グループ長で、今回の研究報告論文の主執筆者であるShaw博士は「DUX4によりどのようなメカニズムで細胞死に至るのかを解明するのが、今後の課題です。これがわかれば、DUX4が筋肉細胞や鼻の前駆細胞に損傷を与えるのを阻止し、FSHD2やアルヒニアに苦しむ患者さんたちのために新しい治療法を見つけることができます」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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