進行性の難治性筋疾患、薬の影響を体外で調べられるモデルが必要
東京女子医科大学は、進行性の筋力低下を引き起こす筋ジストロフィーなどの難治性筋疾患の研究に有用な、高い収縮力のあるヒト骨格筋組織モデルを作製する技術を開発したと発表しました。
進行性の筋力低下を引き起こす難治性筋疾患は、症状の進行によって生活に大きく影響を及ぼします。このような病気の根本的な治療法を開発するためには、病気の詳細なメカニズムを解明することが重要ですが、これまでに行われてきた動物実験では得られる知見に限界があり、また創薬研究においてもヒトに対する薬剤の影響を知ることが難しいという課題があります。
近年では、ヒトの生体組織を人工的に模倣した組織工学技術が発展しており、筋疾患研究の分野においても筋組織モデルの開発が期待されています。その一方、ヒト細胞を生体外で成長させることは動物細胞に比べて難しく、収縮する能力が十分にあるヒト筋組織モデルを使用した研究は世界的にもほとんどありませんでした。
このような背景のもとで、研究グループは今回、独自の組織工学手法から収縮機能が十分に備わっているヒト筋組織モデルを作製する手法を開発しました。
薬剤が筋に及ぼす影響も解析
研究グループは、これまでに開発した細胞シート技術を応用し、生体に近い筋線維の配置や向きを持つ構造を形成させ、それらを十分に収縮するまで成熟化させることで「構造的・機能的に生体を模倣した骨格筋組織」を作製しました。さらに、そのシート状筋組織を何枚も積み上げることで、高い収縮力を生み出す多層型筋組織の作製に成功しました。
また、作製された多層型筋組織は、電気刺激で生じた筋収縮を収縮力計測装置によって計測可能であるため、このシステムを使うことで筋に対する薬剤の作用をモニターすることも可能な技術が開発されました。
研究グループは、薬剤が筋に対してどのような作用・副作用をもたらすかを調べるために利用できると伝えています。今後の治療法開発などにつながる技術として期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)