神経疾患の異常RNAを抑制するタンパク質を探る
近畿大学と大阪大学による研究グループは、神経疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)の原因となる異常RNAの働きを抑制するタンパク質群を発見したことを報告しました。見つかったタンパク質がALSやFTDの疾患モデル動物に対して治療効果を示すことも明らかになりました。
ALSは筋肉が衰えていく神経の病気で、FTDはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の次に多い認知症として知られています。どちらの病気も神経細胞が障害を受けて起こる神経変性疾患で、完全な病気の原因解明や、根本的な治療法の開発には至っていません。
これまでの研究で、ALS、FTDのどちらにおいてもC9orf72と呼ばれる遺伝子に共通した特徴的変化が発見されていました。この特徴とは、C9orf72遺伝子内に存在する「GGGGCC」という同じDNA配列の繰り返し回数が異常に増大するというもので、通常は2~23回の繰り返しであるところ、患者さんでは700~1,600回の繰り返しが確認されていました。この増大した繰り返し配列に基づいた異常なRNAの産生が、他のタンパク質を巻き込んだ凝集や、異常なポリペプチドの合成につながることで神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こすと考えられています。
研究グループは、異常なRNAの働きを抑えることで病気の治療につながる可能性があると考え、今回ALSやFTDで見られる繰り返し配列の増大を再現したモデル動物であるショウジョウバエを使い、細胞内の異常なRNAの量を減らす分子の探索を行いました。
ALSやFTDの治療薬候補となるhnRNPA3タンパク質の発見
その結果、hnRNPA3というタンパク質が異常なRNAの量を減らし、有害なタンパク質の凝集を防ぎ、神経細胞の変性も防ぐことを発見しました。
今回の発見により、異常RNAを原因とするALSやFTDの新たな治療法の開発につながることが期待されています。さらに、この方法は、同じようなDNA配列の繰り返しの増大によって起こる病気である脊髄小脳失調症や神経核内封入体病など他の疾患の治療法の開発にもつながる可能性があると見られています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)