SMAの骨格筋に対する病変の発症メカニズムは不明
京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、脊髄性筋萎縮症(SMA)に関連するSMNというタンパク質が、骨格筋の形成過程で機能するミトコンドリアの発生に重要であることを発見しました。
SMAは、神経と筋肉に影響を及ぼす遺伝性疾患で、SMNというタンパク質の設計図であるSMN1遺伝子の機能が遺伝子変異により失われることで発症します。SMAの重症度はI型からIV型までの4つに分類されており、中でも最も重症なI型は、呼吸障害を引き起こし、生まれたばかりで命を落とすこともあります。現在はゾルゲンスマ(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)という治療薬などが登場しましたが、最重症型のI型では思うような効果が得られないこともあり、さらなる治療法の開発が求められています。
最近まで、SMAについての研究は運動神経の異常に焦点を当てたものが主となってきましたが、近年は骨格筋に起こる病変や、骨格筋に関わるミトコンドリアの機能異常などが注目されています。ただし、骨格筋の病変がどのようなメカニズムで起こるのかはまだわかっていませんでした。
今回、研究グループは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)やマウスの細胞を使い、SMAで起こる骨格筋症状の発症機序について検討しました。健康な人の細胞から作られたiPS細胞に、標的遺伝子の機能を抑制するshRNAを導入し、SMNの働きを失わせた細胞を作製。SMA患者さん由来のiPS細胞に対しては逆にSMNを補充しました。その上で、これらの細胞にMYOD1という転写因子を働かせることで、骨格筋への分化誘導を行いました。
SMNが欠損するとミトコンドリアの働きが低下
こうして判明したのは、SMNが欠損していると、細胞が骨格筋細胞への分化開始6日目に、細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの働きが低下することです。また、MYOD1以外にも筋肉の発達やミトコンドリアの機能に重要なマイクロRNAである、miR-1とmiR-206の2つが、SMNを持たない細胞では正常なレベルで作られないことも突き止められました。
研究グループは、骨格筋の発達におけるSMNの役割を調べたところ、SMNは、筋肉の発達過程で特定の遺伝子のオンとオフを制御することに関与していると判明しました。具体的には、miR-1とmiR-206の制御にSMNが関与していることがわかったのです。SMNは骨格筋の発達に伴う遺伝子活性の調節に重要な役割を果たしていると示されました。
さらに、研究グループはmiR-1とmiR-206を骨格筋細胞に導入することで、SMAの症状を改善できるかどうかを調査しました。SMAを発症したマウスの細胞を使って実験すると、miR-1とmiR-206の導入により、ミトコンドリア機能が向上し、筋管細胞の形成が改善され、収縮加速度が野生型マウスと同等の値まで回復することが確認されました。
研究グループは、SMAにおける骨格筋障害のメカニズムの一つを解明し、同疾患に対する新たな治療法の開発に道を開くと説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)