X染色体上のジストロフィン遺伝子変異が原因となる疾患
大阪大学の研究グループは、ベッカー型筋ジストロフィーで引き起こされる重症心不全のメカニズムを、iPS細胞由来分化心筋細胞を用いて解明したことを発表しました。
ベッカー型筋ジストロフィーは、筋ジストロフィーのいくつかある病型の一つで、ジストロフィン遺伝子の変異により発症します。運動障害のほか、心不全の原因となる拡張型心筋症を引き起こすことがあります。ジストロフィン遺伝子はX染色体上に存在し、X染色体を1本のみもつ男性でこの病気を発症することが多く、X染色体を2本もつ女性はキャリアと呼ばれ、男性に比べ軽症であることが多いとされています。
一方で、ジストロフィン遺伝子の変異を持つ女性キャリアにおいて、極めてまれに若い時期に重症心不全に至ることがありました。しかしその原因やメカニズムは明らかではありませんでした。
研究グループは、若い時期に補助人工心臓が必要な重症心不全に至った女性キャリアの一人について、心筋組織や遺伝子についての解析と同時に、iPS細胞由来の分化心筋細胞を用いてその機能を調べる解析を行いました。
ジストロフィン遺伝子に加え、PLOD3遺伝子に変異を発見
遺伝学的解析の結果、この女性キャリアではジストロフィン遺伝子のエクソンが一部抜け落ちる遺伝子変異により、短いジストロフィンが作られていることがわかりました。また、詳細な遺伝子解析によりジストロフィン遺伝子変異に加え、コラーゲン生合成に関わるPLOD3遺伝子においてストップゲインと呼ばれるタンパク質が正常に生成されない変異が生じていることが明らかとなりました。
次に、遺伝背景が同一のiPS細胞を作製して、心筋細胞に分化させてリング状に組織化し、心筋組織が収縮する力やスティフネス(硬さ)を測定しました。短いジストロフィンを作り出す心筋細胞では、正常ジストロフィンを作り出す心筋細胞に比べて収縮力とスティフネスが低下しており、PLOD3変異を修復することで、スティフネスが改善することが明らかになりました。
さらに、組織の維持に必要なコラーゲンの産生量がPLOD3の欠損により低下していることも明らかになりました。研究グループは、結果は今後、重症症例に対する治療法開発につながると述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)