遺伝子診断を迅速化できる新たな手法を開発、ミトコンドリア病で確定診断に貢献

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ミトコンドリア病などの遺伝性疾患では、遺伝子診断の際にVUSが問題となる
  2. 細胞を用いて、VUSの機能を迅速に解析できる方法を開発
  3. マルチオミクス解析と組み合わせ、新たな症例を迅速に確定診断できた

診断が難しいミトコンドリア病、VUSは大きな課題

千葉県こども病院は、ミトコンドリア病遺伝学的検査で見つかることが多い「臨床的意義の不明なバリアント(VUS)」に対して、マルチオミクス解析を駆使して病的意義の評価を可能にすることに成功したと発表しました。これは、同病院、順天堂大学、近畿大学、埼玉医科大学の共同研究グループによる成果です。

ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能に不具合があることが原因となる病気の総称で、発症年齢や症状、遺伝形式は多岐に渡ります。そのため、診断が非常に難しく、診断率はおよそ40%です。遺伝子診断でVUSが見つかった場合、それが病気に関係あるものかを突き止めるには非常に時間がかかり、大きな問題となっています。これはミトコンドリア病だけの問題ではなく、遺伝学的検査を行う上で共通の、大きな課題となっています。

遺伝子欠損細胞にVUSを導入で機能回復を検証

研究グループは、こうした問題を解決するため、VUSの病的意義を網羅的かつ簡便に調べられる方法の構築に取り組みました。

構築にあたり、ミトコンドリア病の原因遺伝子の一つであるECHS1遺伝子を対象にして、検証を行うことにしました。この遺伝子について、これまでに患者さんのゲノム解析で見つかっていた病的バリアントとVUS、さらに東北メディカルメガバンク(主に東北在住の日本人のゲノム情報を含むバイオバンク)に登録されていた健常者由来のレアバリアント(集団に1%未満で見られるまれなバリアント)を検証の対象としました。

まず、ECHS1遺伝子を欠損させた細胞を作製しました。その細胞に、正常なECHS1遺伝子を外から入れると、その正常な遺伝子が働いて、細胞がECHS1遺伝子を欠損していないような状態になることを確認しました。この確認は、ATPという物質の量を測定することで簡便に行うことができます。つまり、正常なECHS1遺伝子を戻した細胞では、ATP量の回復が確認されました。

次に、既知の病的バリアントあるいはVUSを、ECHS1遺伝子欠損細胞に導入しました。VUSが、この遺伝子から作られるタンパク質の機能を失わせるようなバリアントであれば、導入してもATP量が回復しないことになります。この検証によって、これまでVUSとして留まっていたバリアントが、作られるタンパク質の機能に与える影響(機能的意義)を決定することができ、いくつかのバリアントに関しては病的バリアントと判定されました。東北メディカルメガバンクに登録されていたバリアント(ただしヘテロ接合状態)については、機能喪失を示す結果となり、病気の発症に関与する可能性が示唆されました。

他の遺伝子にも応用でき、早期診断・早期治療につながる手法

研究グループは、こうしてVUSを検証するのと並行して、マルチオミクス解析による診断も行いました。この解析からECHS1遺伝子の発現低下に関連するバリアントと、上記のATPによる解析で検証したバリアントが見つかりました。後者については、先にATPでの検証を行っていたため、迅速に病的なバリアントとして判定することができました。さらに、見つかったバリアントを過去のゲノム解析データの中から検索することで、さらなる症例の発見にもつながりました。

こうして、VUSを検証するための簡便かつ迅速な検証方法を新たに構築することができ、複数のVUSを病的バリアントと判定することができました。さらに、マルチオミクス解析と組み合わせることで、新たな症例の確定診断にも至りました。ECHS1遺伝子の不具合による疾患は、バリンというアミノ酸を制限した食事(バリン制限食)により症状を緩和することが可能であるとわかっています。そのため、迅速な診断が、予後に大きく影響します。

研究グループは、「今回確立した、迅速な診断手法は、臨床の現場において非常に大きな意義を持ち、今後の早期診断および早期治療を実現する手助けとなるはずである」とし、「この手法は他の遺伝子でも応用可能であり、今後の発展が大いに見込まれる」としています。研究グループは、既に複数の遺伝子で同じ検証方法が利用できることを確認しているとのことです。(遺伝性疾患プラス編集部)

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