新しい目の遺伝性疾患を発見、多彩な症状が現れる仕組みの一端を明らかに

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 1つの家系の中で多彩な目の症状がさまざまな組み合わせで起こる疾患の原因解明を行った
  2. 見つけた原因遺伝子から作られるタンパク質は、「mRNAスプライシング」に関わっていた
  3. 目や脳の形成過程で重要な遺伝子の調節に関わるタンパク質のmRNAスプライシングに関わっていると考えられた

1つの家系の中でさまざまな症状が起こる目の疾患

東京医科歯科大学を中心とした研究グループは、生まれつきさまざまな目の形成異常を示す新しい目の難治疾患を発見しました。そして、その原因が、遺伝子を担うDNAから情報を読み取って作られるメッセンジャーRNA(mRNA)の形成に関わる遺伝子の変異により、発生期に目や脳の形成に関わる遺伝子のmRNA形成の仕組みが阻害されるためであることを明らかにしたと発表しました。

目や脳は、各種の組織で構成される複雑な臓器であり、さまざまな遺伝性疾患が知られ、それらの多くは、特定の組織や機能だけに影響を受けます。原因となる1つの遺伝子が、1つだけの機能を持つような場合には、そのように特定の組織や機能だけが影響を受けますが、1つの遺伝子が複数の機能をもつような場合には、多くの組織や機能に症状が現れます。

研究グループは、さまざまな目の異常が血縁関係で見られる疾患の原因解明を行いました。一般的に遺伝性疾患は1つの家系の中で同じ症状を示すことが多く、また、1人の患者さんの左右の目には同じ症状が現れることが多いのですが、この疾患では家系の中でも、1人の左右の目においても多彩な症状がさまざまな組み合わせで起こるという特徴を持っていました。

目と脳の形成に関わる遺伝子のmRNA形成と関連

遺伝子解析の結果、機能不明な遺伝子に変異が発見され、この遺伝子の働きを阻害するノックアウトマウスを作製したところ、ヒトでの症状と似た症状が現れました。さらに、この遺伝子は全ての臓器で働いており、目と脳では特に強く働く遺伝子であることがわかりました。

また、培養細胞でこの遺伝子から作られるタンパク質が、スプライシングと呼ばれるmRNA形成において重要な働きをする「Integrator complex」と呼ばれるタンパク質の複合体の一部を構成する15番目のタンパク質であることがわかり、この遺伝子は、Integrator complex subunit 15(INTS15)遺伝子と名付けられました。

さらに解析を行ったところ、INTS15が、発生期に目と脳の形成に関わる遺伝子のmRNAスプライシングに重要な役割を果たしていることがわかりました。

遺伝子から写し取られたmRNAの情報をもとに、アミノ酸を連結しタンパク質が作られます。スプライシングは、mRNAが作られる際に、RNAの必要な部分から不要な部分を切り取る作業で、切り取る組み合わせが異なると複数のmRNAが作られ、結果的に複数のタンパク質が作られます。これをスプライシングバリアントと言い、これが多ければ遺伝子の機能も多くなります。目や脳は複雑な構造をもち、発生期の形成過程で多数のスプライシングバリアントをもつタンパク質が他の遺伝子を調節しているため、INTS15は目や脳に強く発現して、この過程に関わっていると考えられました。

研究グループは、この新しい疾患をvariable panocular malformations(VPM)と名付けました。新しい目の疾患が見つかり、mRNAの形成障害によって起こる先天形成異常の仕組みの一端が明らかになったことは、大きな意義があると考えられます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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