病的意義がわからない遺伝子の変化、発見されても管理の対象にならない
東京医療センターを中心とする研究グループは、日本人に特有のBRCA2遺伝子のバリアントを発見し、機能解析実験からその病原性を明らかにしたことを報告しました。
一般にがんは遺伝しませんが、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は親から子へ50%の確率で遺伝し、BRCA1、BRCA2遺伝子はその原因となる遺伝子として知られています。これらの遺伝子のどちらかに病気の原因となる変化(病的バリアント)を持つと、乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんなどを若いころから発症する可能性が高くなります。そのため、病的バリアントを持つことが明らかになった場合は定期的な検査のほか、予防としてのリスク低減手術など、積極的な医学的管理が行われます。
一方で、BRCA1とBRCA2遺伝子検査(遺伝学的検査)が実施された際、病的意義がわからないバリアント(VUS)が同定されることがあり、リスクが判断できないために積極的な管理は行われず、患者さんの不利益につながることが問題となっていました。
研究グループは、VUSの病的意義を評価するため、これらの機能解析を行いました。
日本人乳がん・卵巣がん患者さんから発見した、BRCA2遺伝子のVUSを解析
まず、これまでの受診患者さん、データベース、過去の論文報告を調査し、日本人乳がん・卵巣がん患者さん10人においてBRCA2遺伝子に「c.7847C>T(p.Ser2616Phe)」という、VUSと解釈されてきたバリアントを発見しました。このバリアントは海外のデータベースには登録されておらず、日本人特有であると考えられました。そこで研究グループは、細胞実験による機能解析を実施し、このバリアントが病原性をもつことを分子遺伝学的に証明しました。
今回の研究結果から、BRCA2遺伝子のc.7847C>T(p.Ser2616Phe)バリアントは、日本人集団に特異的に認められ、乳がんや卵巣がんの発症原因となることが明らかになりました。このバリアントは日本人に特有であり、VUSの判定のまま適切な医学的対応が取られていない人が相当数いると推察されるため、周知することで一人一人にあった治療につながると研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)