子どもの入院に付き添う家族の実態を調査
NPO法人キープ・ママ・スマイリングは6月1日、入院中の子どもに付き添う家族の実態調査を実施し、全国から3,000人以上の回答を得た調査データの概要を発表、厚生労働省とこども家庭庁へ調査概要と、付き添う家族の環境改善へ支援などを求める要望書を提出したことを、同日開催の記者会見で発表しました。
1994年に制定された新看護体系では「看護は、当該保険医療機関の看護要員のみによって行われるものであり、当該保険医療機関において患者の負担による付添看護が行われてはならない」と定められています。また、「治療に対する理解が困難な小児患者の場合は医師の許可を得て付き添うことは差し支えない」と家族の付き添いを認めていますが、看護力を補充するような労力提供型の付き添いは禁止されています。
同法人は、理事長である光原ゆり氏自身の経験と、子どもの入院に付き添う親を食事で支援するこれまでの活動の中で、入院している子どもの家族(特に母親)は、本来は看護師の仕事である療養上の世話やケアを、病室で泊まり込みながら行っており、看護師不足を背景に、親が半ば強制的に付き添いを担わされている実態があるのではないかと感じていました。しかし、これらを示す大規模調査はありませんでした。
アンケート調査に3,600人以上の回答が集まる
そこで今回、同法人は、1)「労力提供型の付き添い」の実態を明らかにし、2)付き添いに伴う家族の生活環境の実態を把握するため、2018年1月~2022年12月16日の期間に、0~17歳の子どもの入院に付き添っていた人(泊まり込み、通い含む)を対象にインターネットを使ったアンケート調査を実施しました。
アンケート調査内容として、1)「労力提供型の付き添い」の実態については、「付き添い中の世話やケア」「世話やケアに費やした1日あたりの時間」「看護師にまかせたいケア」「看護師にまかせられないと思った経験」「看護師以外に世話やケアをまかせたい人について」「付き添い入院の希望、病院からの付き添い要請、付き添い願い書の提出有無など」、2)付き添いに伴う家族の生活環境の実態については、「付き添い入院中の食事・睡眠・入浴・シャワーの状況」「付き添い中の体調」「付き添い中の経済状況」「付き添い中の仕事状況など」の設問を作成。
団体の主事業の利用者約3,300人にメールで回答を依頼したほか、回答者・付き添い経験者からのSNS拡散協力もあり、有効回答3,643件の回答が集まりました。
夜間や長時間に及ぶ労力提供型の付き添いが常態化
アンケートの結果、看護要員の代わりに、長時間にわたって子どものケアや世話を行う「労力提供型」の付き添いが常態化していることが浮き彫りになりました。
付き添い中に行った世話やケア内容を回答する設問に対し、食事介助88.2%、排泄ケア90.1%、清潔ケア(入浴、嘔吐物の処理含む)81.0%、服薬78.7%、見守り(移動を含む)94.4%など、8~9割の回答者が、看護要員が対応すべきものを含む世話やケアを行った経験があると回答しました。その他の自由記述回答の中には、気管切開ケア、人工呼吸器の管理、バイタル確認、体位交換など専門職が対応すべき内容も見られました。
世話やケアに費やした1日あたりの時間についての設問では、「21~24時間」の回答が25.5%と最も多く、1日6時間以上を費やした割合は全体の8割に上っていました。また、他の設問から、94.5%で夜間の世話や看護の経験があること、付き添い者は食事・入浴・睡眠などの日常生活も大きく制限されていることなど、付き添いにおける過酷な実態が明らかになりました。
看護師が忙しく、十分に面倒を見てもらえないと感じる
さらに、7割以上において入院時に付き添うかどうかの選択権がなく、希望していないにもかかわらず付き添っていた事もわかってきました。加えて、約半数は、入院時の説明において付き添う理由についての説明をされていませんでした。入院時に付き添う理由を説明された人の多くは「子どもが自分で身の回りのことができないから」「親が一緒にいたほうが子どもが安心するから」と説明されていました。
また、付き添い中に看護師に子どものケアをまかせられない、と思った経験が「ある」という回答は全体の6割に上り、その理由として「看護師が忙しくて十分に面倒を見てもらえないと感じたから」という回答が最も多く、全体の8割となっていました。
こういったデータから、医療機関においても、入院中の子どもが親と一緒に過ごせる環境を保障することの重要性は認識しつつも、看護師などの人手不足により療養上の世話が十分にできず、保護者に付き添ってもらわなければ立ち行かない現状があることが推測されました。
入院中の子どもの権利として、保護者が安心して付き添える環境整備を
今回の調査結果から、子どもに付き添う親の日常は過去の報告と同様、依然として劣悪であり、医療機関による生活支援だけではなく、公的・社会的な支援がほとんど行われていない実態がわかってきました。
また、医療的ケアを専門家ではない者が行う点について、回答から服薬などで誤薬を起こしている例もあるなど、子どもの健康を脅かす事にもつながることも判明しました。
同法人は、「親の付き添いは、病気の子どもの早い回復だけでなく成長や発達の過程において重要であり、子どもには入院中に安心できる環境で過ごすために親に付き添ってもらう権利があるが、日本はこういった観点での整備が遅れているのではないか」と主張。今回の調査概要と要望書の提出は第1歩であり、今後も変わっていくように訴え続けていきたい、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)