知的障害、てんかんなど神経系の症状が見られるアンジェルマン症候群
北海道大学を中心とした研究グループは、遺伝性疾患であるアンジェルマン症候群において、神経系の症状が発生するメカニズムの1つを解明し、知的障害の症状を改善しうる薬剤を特定したと発表しました。
アンジェルマン症候群は、知的障害、てんかん、運動失調など主に神経系に関連したさまざまな症状が見られる疾患です。知的障害は重度で、意味のある言葉を話せるようになる人は半数以下であるとされますが、現在この病気の有効な治療法は確立されていません。
これまでに、この病気の原因として、UBE3A遺伝子の機能が失われることが知られています。UBE3A遺伝子は、細胞内で不要になったタンパク質が正しく分解されるために必要な酵素の設計図と知られていますが、この病気の神経機能障害がどのように引き起こされているのかについては十分に解明されていませんでした。
研究グループは以前の研究で、このUBE3A遺伝子の機能を欠失したアンジェルマン症候群モデルマウスについての研究を行い、アンジェルマン症候群の原因として、脳の中の「GABA作動性抑制性神経伝達」と呼ばれる働きが失われることが、この病気の原因の1つであることを発見していました。
GABA作動性抑制はクロライドイオン(Cl-)が細胞の中に流入することで引き起こされることがわかっています。近年、イオントランスポーターと呼ばれ、Cl-の調節に関わるNKCC1やKCC2が、自閉症やてんかんなどの脳機能障害と関わる症状と関連しているという研究が報告されていました。しかし、これらとアンジェルマン症候群との関連はわかっていませんでした。
研究グループは、アンジェルマン症候群モデルマウスにおいて、脳の海馬におけるNKCC1、KCC2タンパク質、細胞内クロライド濃度やGABA作動性神経伝達を調べました。
ブメタニドの継続投与でモデルマウスの認知機能が改善
その結果、Cl-の調節に関わるNKCC1とKCC2タンパク質が細胞内で作られる量が、アンジェルマン症候群モデルマウスでは異常であることが明らかになりました。NKCC1はCl-を細胞の中に入れる働き、KCC2はCl-を細胞の外に出す働きを持っていますが、NKCC1は異常に増加、KCC2は異常に減少していることが明らかになりました。また、シナプス外の神経伝達に重要な「GABA持続電流」も低下していました。
そこで、NKCC1を抑制することが知られ、利尿薬として用いられている「ブメタニド」をマウスに継続して投与したところ、モデルマウスの認知機能が改善することが判明し、過剰なNKCC1が、神経機能障害を引き起こしている可能性が示唆されました。
研究グループは、今回の実験では脳内移行性の低いブメタニドの効果を確認するために高容量を投与したため、この手法を直接患者さんに用いることはできないものの、今回の研究結果が、脳のNKCC1やKCC2を標的とした薬剤が、治療の選択肢がないアンジェルマン症候群にも適応される根拠になり得る、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)