色素性乾皮症、DNA損傷の修復に関わる原因遺伝子の働きの詳細なメカニズムを解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 色素性乾皮症は、ヌクレオチド除去修復(DNA損傷を修復する仕組み)に関わる遺伝子の変異が原因となる
  2. 修復の失敗によって別な変異を引き起こさないよう、損傷箇所を再確認する仕組みの詳細は不明だった
  3. クライオ電子顕微鏡法による分子構造の解析により、色素性乾皮症に関わるXPA、XPB、XPDタンパク質のどの部分が、どのような働きをするのか明らかになった

がんの発生を防ぐ重要な仕組みに異常が起こる病気

神戸大学を中心とした研究グループは、「ヌクレオチド除去修復」と呼ばれる、DNA損傷の修復過程において、その過程に関わる色素性乾皮症の原因遺伝子の機能を明らかにしたと報告しました。

ヌクレオチド除去修復は、紫外線や発がん性の化学物質によって傷つけられたDNAを修復し、がんの発生などを防ぐ重要な仕組みで、色素性乾皮症は、この仕組みに関わるいくつかのタンパク質の設計図となる遺伝子に変異があることで発症する遺伝性疾患です。ヌクレオチド除去修復が正常に起こらないことで、この病気では特に紫外線によって皮膚がんを発症しやすくなります。

色素性乾皮症の8種類の原因遺伝子のうち7種類の遺伝子から合成されるタンパク質(XPA〜XPGタンパク質)はすべてヌクレオチド除去修復の反応に直接関わっており、日本国内の患者さんの半数以上はXPA遺伝子に変異を持つと知られています。

ヌクレオチド除去修復は、まずセンサーとなるXPCタンパク質がDNAの構造異常を見つけ結合します。このタンパク質は幅広い損傷を見つけることができる反面、実際には損傷がないところにも結合する場合があり、その場合必要のない修復反応によって別な突然変異を引き起こす可能性があります。それを防ぐため、別なタンパク質であるTFIIHとXPAが、さらに損傷箇所の確認を行うとわかっていました。TFIIHはXPB、XPDタンパク質を含む7種類のタンパク質が結合した大きな複合体タンパク質で、転写と呼ばれる遺伝子の仕組みにも重要な役割を持ちます。

損傷箇所の確認は、ヌクレオチド除去修復において重要なプロセスであるものの、その詳しい分子メカニズムは明らかではありませんでした。研究グループは、すでにわかっているヌクレオチド除去修復の段階に沿って、損傷したDNAに、XPC、TFIIH、XPAタンパク質を順番に結合させたものを人工的に作成し、クライオ電子顕微鏡法と呼ばれる、タンパク質などの分子構造の詳細を確認できる方法で解析しました。

タンパク質の分子構造から修復の失敗を防ぐ機構を解明

明らかになった構造から、XPA、XPB、XPDなどのタンパク質が、修復の失敗を防ぐために以下のような働きをしていることが明らかになりました。

TFIIHは通常U字形をしており、その先端にXPDとXPBがそれぞれ結合しています。損傷のあるDNAに、XPC、TFIIHが順に結合した時、TFIIHはXPBを介してXPCと結合し、XPDはDNAやXPCと結合しません。そこにXPAが加わると、DNAの2重らせんとTFIIHの構造が変化しXPDが部分的に一本にほどけた(一本鎖状態)のDNAと結合します。

結合した一本鎖DNA上を決まった方向に移動する性質のあるXPDは、他のタンパク質と結合しているため動けず、逆にDNAの方が移動し、XPDとの結合部分である狭い穴のような構造の部分をくぐってDNA損傷部分が引き込まれます。

この時、損傷でDNA鎖の構造が大きく変わっているとその部分が穴の入り口に引っかかって止まってしまうことで、損傷の有無が確認され、修復反応を進めるかどうかを最終判断していることがわかりました。

研究グループは、今回ヌクレオチド除去修復において、XPA、XPB、XPDタンパク質のどの部分が、どのような働きをしているかが明らかになったことで、色素性乾皮症で認められる遺伝子の変異がどのように症状につながるのかの理解が進み、この成果により将来的には創薬などの治療法の開発にも貢献できる可能性がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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