注目が集まる遺伝子治療、ファイザー株式会社は遺伝子治療薬の製造拠点に投資

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 希少疾患やがんの領域で注目の遺伝子治療、近年承認薬が次々に登場しており日本では2023年6月現在9製品が承認
  2. 日本遺伝子細胞治療学会は、遺伝子治療に携わる認定医制度を設置
  3. ファイザー社はAAVベクターを用いた遺伝子治療薬の開発に取り組んでおり、米国の開発・製造拠点に設備投資を行った

再び注目が集まる遺伝子治療、世界で承認薬が次々に登場

ファイザー株式会社(以下、ファイザー社)は、遺伝子治療に関するメディアセミナーを実施し、遺伝子治療の最新動向や同社の取り組みについて講演を行いました。まず、九州大学 大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学の米満吉和教授により、遺伝子治療についてのこれまでの経緯のほか、国内の規制や学会の動きが説明されました。

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九州大学 大学院薬学研究院 革新的バイオ医薬創成学 米満 吉和教授

遺伝子治療は、希少疾患の8割を占める遺伝性疾患やがんの領域で注目され、すでに実用化が始まっている治療もあります。現在承認されている遺伝子治療の手法は、患者さんから採取した細胞へ遺伝子導入し、その細胞を体内に戻す体外(ex vivo)遺伝子治療と、必要なタンパク質を体内で作れるような遺伝子の運び手(ベクター)を直接注射する体内(in vivo)遺伝子治療の大きく2種類に分けられます。

遺伝子治療は、1990年頃より劇的な効果が期待され開発が進められ始めましたが、重篤な副作用などの発生により開発や研究自体が低迷した時期がありました。しかし、2012年にGlybera(グリベラ)と呼ばれるリポタンパク質リパーゼ(LPL)欠損症の治療薬(現在は販売終了)が欧州で承認、また、がんの免疫療法であるCAR-T療法の良好な試験成績が発表された頃より、再び遺伝子治療に脚光が集まり、世界では近年承認薬が次々に登場しています。

2023年5月時点において、日本で承認されている遺伝子治療は、ex vivo遺伝子治療が5つ、in vivo遺伝子治療が3つの合計8製品で、そのうち遺伝性疾患を対象としたものは、脊髄性筋萎縮症のゾルゲンスマ(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)です。

※編集部注

2023年6月に、新たに遺伝性網膜ジストロフィーの遺伝子治療薬「ルクスターナ」(一般名:ボレチゲン ネパルボベク)が日本で承認され、現在日本で承認されている遺伝子治療はin vivo遺伝子治療が1つ増え、合計9製品です。

遺伝子治療の法規制と認定医制度の設置への取り組み

遺伝子治療は、日本において再生医療等安全性確保法や医薬品医療機器等法などの法律によって規制されており、安全な医療が迅速かつ円滑に承認されるように枠組みが決められています。また、遺伝子治療は、カルタヘナ法とよばれる遺伝子組み換え生物の使用などに関する法律にも関わり、ウイルスベクターなどの遺伝子組み換え製品が環境中に排出されないよう、取り扱いについても規制されています。

こういった背景も含め、日本遺伝子細胞治療学会では、遺伝子細胞治療に関する高度な専門知識だけでなく、医療倫理観を持つことや関連法令の理解や遵守などの能力を満たした医師を学会が認定する制度を設置、今後は医療機関などにも認定制度の範囲を広げる計画もあり、国内でも安心して遺伝子治療を受けられるような医療体制を整える取り組みが行われています。

アデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療への取り組みとその課題

また、ファイザー社の取り組みについて、同社希少疾病領域メディカルアフェアーズ部部長の嶋大輔氏が講演を行いました。

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ファイザー株式会社 希少疾病領域メディカルアフェアーズ部部長 嶋大輔氏

世界でおよそ4億人が罹患していると言われる希少疾患には、そのほとんどに治療法がありません。希少疾患の8割は遺伝性疾患であり、遺伝子を治療の標的とする遺伝子治療は、希少疾患の患者さんにとって新たな治療法が出てくる可能性のある1つの希望となっています。

ファイザー社は、遺伝子治療の中でも、臓器特異的に長期に働く可能性があり、有害事象を引き起こしにくいと考えられることなどから脚光を浴びているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療において、開発から商品化まで取り組んでいく予定であると説明。安定的な大量製造が難しいとされるAAV遺伝子治療薬の開発・製造を行うため、米国に設備投資を行いました。

現在は、それらの技術をもとにした血友病やデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬において臨床試験が進められています。遺伝子治療は、一度の治療で長期的な効果を示す可能性もある治療ですが、すべての遺伝性疾患の患者さんに同じように適しているわけではないこと、また、有効性が長期間持続するかどうかはまだ確立されていないことなど、臨床的にも検討すべき課題が多くあります。

また、日本における遺伝子治療の課題として、希少疾患は患者数が少ないことから日本人のデータを取るために海外の臨床試験に早く参加していかなければならない、治療薬が市販された後でも長期間に渡ってモニターする仕組みが必要である、薬価が高いことや実施体制の整備に初期投資が必要なことから病院経営に負荷がかかる、遺伝子治療やその後のフォローアップを受けられる医療機関をいかに確保していくのか、といったようなこともあります。

嶋氏は「今後技術は少しずつ発展していく可能性があるが、現時点ではまだ遺伝子治療は夢の治療法ではなく、さまざまな制限があるというような点を、患者さんも、医師も、社会も理解していただくことで、安全に遺伝子治療が進められていくことができるのではないか」と述べていました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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