DMDの細胞移植治療法の開発に有用なモデル動物
京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する細胞治療研究に重要な、DMD患者さんと同様の重篤な症状を示す免疫不全モデルラットの作製に成功したことを報告しました。
DMDは、遺伝子の異常によって筋肉の中にある「ジストロフィン」と呼ばれるタンパク質の機能が失われ、筋肉が変性し壊死していく遺伝性疾患です。病気の進行によって、呼吸や心臓の機能も低下し、命に関わる症状となることもあります。
研究グループは以前の研究で、ヒトiPS細胞から高い再生能を持つ骨格筋幹細胞を誘導することに成功していました。しかし、DMDにおける細胞移植治療法の開発には、移植する細胞を正しく評価するためのモデル動物が必要となります。
そこで今回、ヒト細胞を移植可能な免疫不全のDMDモデルラットの作製を試みました。
既存のDMDマウスよりも患者さんの症状に酷似
研究グループは、免疫不全ラットと、ゲノム編集を使って作製された免疫不全ではないDMDモデルラットを交配させ、免疫不全DMDモデルラットを作製してその評価を行いました。
その結果、作製した免疫不全DMDモデルラットは、DMD患者さんの症状と同じように尿中タイチン(筋破壊の指標)の上昇、前肢の握力の低下、骨格筋重量については大腿四頭筋では低下、心筋は増大が見られました。
また、横隔膜や心臓の筋肉は、線維化(組織が硬くなり機能が失われる症状)が月齢ごとに進行し、これまで細胞製剤の評価試験で一般的使われていたDMDマウスモデルと比較しても、症状が極めて重く実際のDMD患者さんと似ていることがわかりました。
作製した免疫不全DMDモデルラットの筋肉内へ、ヒト不死化筋芽細胞を移植したところ、3週間後に生着し、細胞移植治療が可能であることも確認されました。
研究グループは、今回の研究成果によりDMD治療に有効な細胞製剤の早期実用化や細胞移植治療の開発を加速させることが期待できる、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)