遺伝子治療に用いられるAAV、治療効果を期待しない部位にも作用する可能性
東京大学を中心とした研究グループは、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)による遺伝子導入の効果を皮膚の潰瘍表面に局在化させる方法を開発したことを報告しました。
遺伝子治療において、AAVは、生体内の細胞の遺伝子導入に使用されるベクター(遺伝子の運び手)として、脊髄性筋萎縮症、網膜ジストロフィーなどの治療にも用いられています。その一方で、投与されたAAVは治療効果を期待する臓器以外の部位で作用し、意図しない副作用を引き起こす可能性があります。そのため、これまでに、AAVが作用する部位の特異性を制御するさまざまな方法が試みられてきました。
研究グループは、AAVをベクターとする遺伝子導入で、バイオマテリアルとして広く使われているポリエチレングリコール(PEG)を使った高分子キャリアをAAVと同時に導入する実験を行いました。高齢化社会で増加する褥瘡(じょくそう)、糖尿病性潰瘍などの皮膚の潰瘍(かいよう)表面に対して、AAVが局在するかどうかを調べ、治療目的の場所にのみ遺伝子が導入できるかどうかを検討しました。
皮膚潰瘍マウスで3種類の高分子キャリアを検討
研究グループは、PEGハイドロゲル、PEGスポンジ、PEGスライムという3つの構造の異なる高分子キャリアを準備しました。マウスの背中の皮膚潰瘍に、PEGハイドロゲル、PEGスポンジ、PEGスライム、より柔らかいPEGソフトスライム、食塩水の5種類をキャリアとして、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子をAAVで投与し比較したところ、PEGスライム、PEGソフトスライムをキャリアとした場合には食塩水で投与した場合と同じくらい高い効率で遺伝子が導入されていました。
PEGスライムをキャリアとすることによって、肝臓などの目的としていない場所での遺伝子導入は有意に減少していました。GFP標識されたAAVと同程度の大きさのナノ粒子を用いて調べたところ、PEGスライムでは、投与後24時間で皮膚潰瘍表面のナノ粒子数が増加していることがわかりました。
研究グループは、局所的な症状が見られる疾患を対象とした遺伝子治療において、合併症のリスクを減らすような研究開発に応用されることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)