骨格筋組織に慢性的な炎症が起こるDMD、長期ステロイド治療は副作用など懸念
東京大学と株式会社カネカらの研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する羊膜間葉系間質細胞を用いた抗炎症細胞療法の有用性を明らかにしたと発表しました。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ジストロフィンと呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子に変異が生じることで引き起こされる遺伝性疾患で、3,500人に1人の男性で発症し、進行性の筋機能障害によって呼吸不全や心筋症などのさまざまな症状が引き起こされます。この病気では、骨格筋組織に慢性的な炎症が起こり、そのことが機能障害を促進すると知られています。しかしステロイドによる慢性炎症の治療は、効果に個人差があり、長期服用することで副作用を引き起こす懸念があります。
羊膜間葉系間質細胞は、出産時の胎盤から分離した羊膜に由来する、間葉系間質細胞(体性幹細胞の1つでさまざまな組織に存在する)と呼ばれる細胞です。間葉系間質細胞は、複数の種類の細胞に分化する多分化能や多様な免疫制御作用を示すことから、移植ツールとして注目されています。
これまでに、骨髄に由来する骨髄間葉系間質細胞は、移植片対宿主病に対する細胞製剤として販売されています。羊膜間葉系間質細胞は、骨髄などの他の組織由来のものよりも組織含有細胞数が多く、同じロットからの採取・拡大培養が簡単で、細胞増殖能が旺盛なことなどの利点があり、また羊膜間葉系間質細胞は骨髄間葉系間質細胞と類似した免疫制御作用を示すことから、研究グループはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療として羊膜間葉系間質細胞に着目しました。
治療して40週経過後も握力維持、持久力も有意に改善
研究グループは、まずヒト由来羊膜間葉系間質細胞とデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウス由来骨格筋細胞を一緒に培養し、その誘導された分泌因子から、羊膜間葉系間質細胞が骨髄間葉系間質細胞と同じ機序で抗炎症性M2マクロファージの活性化を促す可能性を示しました。
次に、ヒト由来羊膜間葉系間質細胞をモデルマウスに静脈内投与し、炎症制御や運動機能における治療効果を検証しました。その結果、足の筋肉である前脛骨筋は未治療マウスと比べて細胞浸潤領域が限定的で筋線維間の間隙が狭く、軽症であることがわかりました。また、未治療マウスで認められるような広範囲なマクロファージの浸潤などは、治療マウスでは認められませんでした。さらに、治療マウスでは、炎症制御とその後の筋線維壊死の抑制効果が認められました。
運動機能については、羊膜間葉系間質細胞の投与4週後から40週以上経過しても握力が維持され、ホイール回転数による自発運動量においても走行の持久力が未治療マウスと比較して有意に改善し、長期にわたる運動機能の維持効果を示しました。
研究グループは、開発したヒト由来羊膜間葉系間質細胞を活用することで、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの病態進行を遅延させる新たな細胞治療法の開発が期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)