色素性乾皮症、新たな原因遺伝子変異とその治療に有効な医薬品候補を同定

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 原因不明の色素性乾皮症患者さんの全ゲノム解析により、新たにXPF遺伝子イントロン領域の変異を発見
  2. 変異によるメッセンジャーRNAの変化でスプライシングに問題が生じ発症すると判明
  3. スプライシングを是正するASOが治療薬となりうる可能性を患者さん由来細胞で確認

日光に対する過敏症や皮膚がんなどを発症する遺伝性疾患

名古屋大学を中心とした研究グループは、日本人において比較的高頻度にみられる遺伝性皮膚疾患の色素性乾皮症について、その原因となる新たな遺伝子の異常を発見し、その遺伝子異常を有する患者さん(国内でおよそ500人)の治療に有効であることが期待される医薬品の候補を同定したと発表しました。

色素性乾皮症は、日光に対する過敏症や皮膚がんを頻繁に発症する遺伝性疾患で、2万5,000人に1名程度で発症する希少な疾患ですが、日本では海外に比べると10倍ほど多く患者さんがみられることが知られています。

生物の遺伝情報を担うゲノムDNAでは、常にさまざまな損傷が生じていますが、損傷の種類に応じてDNAの修復機構が適切に機能することにより安定して維持されています。色素性乾皮症は、日光に含まれる紫外線によって傷つけられたDNAの修復機構がうまく機能しなくなることで発症するとされる「ゲノム不安定性疾患群」の一つと知られています。

研究グループは、エクソーム解析を実施したものの、疾患原因が明らかにされていなかった日本人の色素性乾皮症が疑われる患者さんについて、全ゲノム解析を行い、患者さん由来の細胞を用いたDNA修復活性検査を実施しました。

XPF遺伝子の「スプライシング」に異常が生じることで発症

解析の結果、XPFと呼ばれる遺伝子のイントロン領域の配列に変異があることが原因でスプライシングと呼ばれる過程に異常が生じ、疾患を発症していることが明らかになりました。

細胞内でタンパク質が作られる際、DNAの中の遺伝子の情報は一度メッセンジャーRNAにコピー(転写)され、その情報からタンパク質が作られますが、スプライシングでは、メッセンジャーRNAの中からタンパク質を作るのに必要な情報だけを抜き出し、イントロン領域が取り除かれます。

今回発見されたイントロン領域の変異を持つ患者さんは、XPF遺伝子のメッセンジャーRNAのイントロン領域で、スプライシング反応を行う因子が誤った配列に結合してしまうことによってXPF遺伝子のスプライシングが正常に行われず、そのため作られるXPFタンパク質に異常が生じ、ヌクレオチド除去修復機構と呼ばれる紫外線によるDNA損傷の修復に重要な仕組みが機能せず、色素性乾皮症を発症することが明らかになりました。

そこで研究グループは、異常のある部分のメッセンジャーRNAに結合する短い核酸(ASO)を利用し、患者さんの細胞内で正常にスプライシング反応が行われることで色素乾皮症の治療が可能になるかどうかについての検討を行いました。

その結果、導入したASOによりスプライシング因子が誤った配列に結合するのが阻害され、正しくスプライシングが起き、正常なXPFタンパク質が作られてDNA修復活性が回復したことが確認されました。

研究グループは、この結果は今回のASOが色素性乾皮症の有効な治療薬の候補になることを示しているだけでなく、疾患原因となるメッセンジャーRNA上の異常配列をASOによりブロックすることでタンパク質発現や細胞機能を回復させる手法は他の疾患にも応用可能である、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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