筋ジストロフィー(DMD)ブタにヒト正常遺伝子搭載の人工染色体を導入、治療効果を確認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 疾患モデル動物としてヒトに近いブタに、巨大な遺伝子を導入した例はこれまでなかった
  2. 240万塩基対ある巨大なヒトジストロフィン遺伝子を、人工染色体に搭載しブタに導入成功
  3. 早期死亡するDMDモデルブタにこの人工染色体を導入したところ全頭が生存、病態改善も認められた

ヒト疾患モデルとしてマウスより有用なブタ、ヒト人工染色体は導入可能か

明治大学を中心とした研究グループは、世界で初めてヒト人工染色体を導入したブタの作出に成功し、作出されたブタを用いてデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する人工染色体の治療効果を検討したと報告しました。

ブタは、ヒトの体と似た部分が多いことから実験動物として医学研究に利用されてきました。ヒトの疾患を真似た病態モデル動物として、マウスでは再現できない病態であってもブタではかなり忠実に再現できることが示されています。

近年、ゲノム編集技術などにより、ブタにおいても効率的に遺伝子改変することが可能となってきましたが、数百万塩基対に及ぶ非常に巨大な遺伝子を導入した遺伝子改変ブタはまだ作出されていませんでした。

研究グループは、人工染色体と呼ばれる技術に着目しました。人工染色体は、サイズの大きい遺伝子や複数の遺伝子を、目的とする細胞の中に運ぶことができる運び屋(ベクター)として利用することができます。今回、細胞からダイレクトに個体を生産することができる体細胞クローニング技術と組み合わせることで、人工染色体を導入したブタを作出し、DMDに対する治療効果を検討しました。

人工染色体でDMDブタに長大なヒトジストロフィン遺伝子全長を導入、治療効果確認

DMDは、ジストロフィン遺伝子が変異し、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の維持に重要なタンパク質が正常に機能しないことで引き起こされる遺伝性疾患で、進行する筋肉の変性や壊死により呼吸不全や心筋症などのさまざまな症状が引き起こされます。

研究グループは、240万塩基対に及ぶヒトのジストロフィン遺伝子全長を含むヒト人工染色体を、DMDを発症するブタ由来細胞へ導入し、体細胞クローニング法を使って、ヒトのジストロフィン遺伝子が導入されたブタの作出を試みました。

DMDを発症するブタは、通常は生後1か月以内に75%程度が死亡しますが、作出されたDMDブタは1か月齢で全頭が生存しました。これらのブタの筋肉では、導入した人工染色体由来のヒトジストロフィンが産生されており、後肢運動機能の回復や筋ジストロフィーの病態マーカーの一つである血中クレアチンキナーゼ値の改善が認められました。これらの結果から、遺伝性疾患の治療における人工染色体の有効性が示唆されました。

一方で、導入したヒト人工染色体はマウスでは安定的に細胞内で保持されるのに対し、ブタでは時間を追うごとに脱落(無くなってしまう)することが判明し、使用する動物種によって、それに適した人工染色体を開発しなければならないという課題も明らかになりました。

研究グループは、今回の研究成果により、巨大遺伝子や複数の遺伝子を導入した遺伝子改変ブタやヒト疾患モデルブタを用いた治療法の開発など、研究加速が期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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