ミトコンドリア病、原因遺伝子変化が不明だった患者さんから新たなリピート伸長を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ミトコンドリア病、遺伝的な要因を診断できない患者さんが多いことが課題
  2. 未診断ミトコンドリア病患者さんのデータから、NAXE遺伝子発現の異常を発見
  3. ロングリードシーケンサーにより、新たなリピート配列の異常伸長を同定

ミトコンドリアの働きが低下、筋肉・脳・心臓など全身に症状が見られる

理化学研究所を中心とした研究グループは、ミトコンドリア病を引き起こす、短い数塩基の配列の繰り返しから成る塩基配列リピート配列)の異常伸長を発見したと報告しました。

ミトコンドリア病は、細胞内小器官である「ミトコンドリア」の働きが低下して起きる病気の総称で、筋肉や脳・心臓を中心に全身のあらゆる臓器に症状を起こし、厚生労働省の定める指定難病対象疾病の一つです。この病気は5,000人の出生に1人という、比較的頻度の高い遺伝性疾患群ですが、根本的な治療法はまだ確立されていません。また、ミトコンドリア病は、現在の遺伝子解析技術でも原因となる遺伝的な要因を発見できない患者さんが多く、その未診断率が6〜7割に達していることが課題となっています。

これまでに、ミトコンドリア病を引き起こす可能性がある425個以上の遺伝子(細胞核のゲノム、ミトコンドリア内にあるミトコンドリアゲノムに存在する)の異常が明らかになっています。その多くは1塩基だけの変化や、短い挿入・欠失をもたらすバリアントで、染色体に大きな変化が起こる構造多型や、リピート配列の異常伸長も少数ながら報告されていました。

リピート配列の異常伸長、数千塩基の長い繰り返し配列の解析が必要

リピート配列の異常伸長によるヒトの疾患(リピート病とも呼ばれます)は、全てを合わせるとこれまで50余りが報告されています。多くは神経に障害が見られることがわかっています。ミトコンドリア病では、リピート配列の異常伸長によって、そのリピート配列を保有する遺伝子の機能が障害されたり、毒性のあるタンパク質が生成されたりすることでミトコンドリアの機能障害につながることが知られています。

リピート病は数百塩基から数千塩基の長い繰り返し配列が見られるため、正確な解析には長い配列を一気に読み取ることができる特別な遺伝子解析装置のロングリードシーケンサーが有効と考えられています。研究グループはこれらの技術を用い、ミトコンドリア病の原因となる新たなリピート異常伸長の同定を試みました。

GGGCCの5塩基、通常は数回のところ約200回繰り返していた

研究グループは、国内の2,932人の未診断ミトコンドリア病患者さんのデータから病気の原因となる遺伝子変化を解析する中で、そのうち400人について際立って異常な遺伝子発現をしている個体を検出するプログラムで評価したところ、一人の患者さんでNAXE(NAD(P)HX epimerase)遺伝子の働きが著しく低下していることを発見しました。

NAXE遺伝子は、その発現量低下や機能喪失を引き起こすバリアントが、ミトコンドリア病の一種、NAXE関連脳症につながることが報告されていました。NAXE関連脳症の症状として、意識低下や神経的な発達の遅れ、歩行能力の低下やけいれんなどが知られています。しかし、この患者さんの検体の全ゲノムシーケンシングを行ったところ、そのようなバリアントは検出されませんでした。

次に、ロングリードシーケンサーを用いて解析した結果、NAXE遺伝子の転写の開始を制御するプロモーター配列の中に、GGGCCの5塩基の繰り返し配列の異常伸長を発見しました。正常な場合はこのGGGCCが3~5回の繰り返しをしていますが、この検体では約200回も繰り返していました。

さらに、詳細な解析の結果、異常伸長しているNAXE遺伝子は転写される活性が著しく低下していること、プロモーター領域やその周辺で遺伝子の発現を抑制する方向に働くCpGメチル化という化学変化が起こっていることもわかりました。

研究グループは、これまで診断困難であった患者さんにおいて、新規のリピート配列の異常伸長を発見した成果は、ミトコンドリア病やその他の遺伝性疾患の未診断症例の解明に貢献すると期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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