CancerX「World Cancer Week2024」に編集長が登壇、「ゲノム医療推進法」について語る

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ヒトの遺伝情報の解読が進み、その情報が医療に生かされるようになってきた
  2. 遺伝情報による差別が懸念されることから、法整備が進められ「ゲノム医療推進法」が施行された
  3. 法律はできたが具体策の検討はこれから

「ゲノム医療推進法」、ゲノム医療を安心して受けられるようにするための法律

1月31日、CancerX(キャンサーエックス)「World Cancer Week2024」にQLife各メディアを統括する編集長が登壇、「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(以下、ゲノム医療推進法)に関わるセッションで意見を交わしました。

CancerX は、産学官民医、当事者の多用な立場の人が集い、がんの社会課題の解決に取り組む組織。同じ目線の高さでの対話を通じて、がんと言われても動揺しない社会をつくることを目的に活動しています。年に1度「World Cancer Week」を設け、多様な立場の登壇者、参加者が一同に介してがんの医療・社会課題を考える多数のセミナーを、主にオンラインで開催しています。今年のWorld Cancer Week(1月28日~2月3日)は「問いは、はじまり。」をテーマにしています。

登壇者

  • 鈴木美慧さん (モデレーター、聖路加国際大学聖路加病院遺伝診療センター認定遺伝カウンセラー)
  • 武藤香織さん (東京大学医科学研究所教授)
  • 宿野部武志さん (一般社団法人ピーペック代表理事)
  • 二瓶秋子 (株式会社QLife 遺伝性疾患プラス/がんプラス編集長)

Cancerx P1

同セッションのテーマは「ゲノム医療新時代~私たちの生活と意識はどう変わる?」。2023年6月に施行されたばかりのゲノム医療推進法に焦点を当てた内容です。

ゲノム医療に関して、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

遺伝性疾患プラス ゲノム医学者が語る、遺伝子医療の現状と未来

ゲノム医療推進法 〈基本理念〉

・世界最高水準のゲノム医療を実現し、その恵沢を広く国民が享受できるようにすること

・子孫に受け継がれ得る遺伝子の操作を伴うものその他の人の尊厳の保持に重大な影響を与える可能性があるものが含まれることに鑑み、生命倫理への適切な配慮がなされるようにすること

・ゲノム医療の研究開発及び提供において得られた当該ゲノム情報の保護が十分に図られるようにするとともに、当該ゲノム情報による不当な差別が行われることのないようにすること

(詳しくはこちら

専門家、患者、メディアの立場で「ゲノム医療推進法」について語る

冒頭、モデレーターの鈴木美慧さんが、人間の遺伝情報の全体像(ヒトゲノム)の研究から見えてきた課題やがん領域におけるゲノム医療について概説。「ヒトゲノムの解読は疾患理解を深めるため、そして新たな治療とつながるために重要なことではあるが、個人情報にあたり、倫理的な問題など課題も浮き彫りになってきた」と話しました。

続いて、武藤さんが「ゲノム医療推進法」とは何かについて専門家の立場から解説。「ユネスコが1997年に「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を発表後、米国をはじめ世界各国で法律ができたにもかかわらず、日本では20年以上動きがなかった。2022年の調査では遺伝差別の規制に対する厳しい対応を求める人が増えたことがわかった。2023年にようやく、超党派の議員連盟の働きかけにより、ゲノム医療推進法が成立にまで至った。具体的にどのようなことをするかは、検討が始まったばかり」と説明しました。

宿野部武志さんは、3歳で慢性腎臓病、40歳で腎臓がんを経験された患者さんです。2019年には疾患を問わず、病気をもつ人が望む生活に近づくための支援などを行う団体として「ピーペック」を立ち上げました。「(一患者の立場としては)長く治療をしてきて、つらい経験をしてきたので、ゲノム医療の推進に期待している」と話しました。

二瓶編集長は、「遺伝性疾患プラス」の編集長として、メディアの立場から、情報発信の上で心がけていることや、直近で実施したゲノム医療推進法に関する読者アンケートの結果などを紹介。「(アンケートで切実な声が寄せられたことなどを踏まえ)遺伝に関する差別や偏見をなくしていくことは難しいことだとは思うが、必要な施策が講じられて、こうした声が減っていくことを期待しつつ、適切な情報発信を続けていきたい」と話しました。

法律はできたけど中身はまだからっぽ、基本計画にどう現場の声を生かせるか

トークセッションでは、社会への影響について、それぞれの立場で意見を話しました。まず懸念点として、武藤さんは「(ゲノム医療推進法は)できたばかりで、中身はまだからっぽで基本計画をこれからつくっていくところ。現場の声がどこまで生かされるかは未知数。現場の声をしつこく届け続けて、差別のことも含めて、全体的に、バランスよく推進していってほしい」と話しました。

宿野部さんは、国民が自分自身の医療データにオープンにアクセスできていない現状を課題として挙げ、「ゲノム情報以前の話。自分の個人医療データがどこでどのように使われていくのかがよくわからない状況で、医療の進歩に対して、意識の面が追い付いていかず、乖離が生じてしまい、より啓発が大変になっていくのではないかと感じている」と話しました。

一方で、「この法律ができたからこそ、今日この機会が設けられ、話をすることができた点は良いこと、今日がスタート」と武藤さん。さらに「(病気を理由に差別を受けた方は)自分はそういう目にあっても仕方ないと思っているんじゃないかなと感じている。そうではなく、もっと怒ればいいのに、怒っていいんだよってことをもっと知ってほしい」とし、宿野部さんも「(ゲノム医療法ができたことで)差別に対して反論することが通じる社会になっていってほしいし、そういうことが起きないようになってほしい」と思いを話しました。

最後に、二瓶編集長はメディアの立場として次のように話しました。「丁寧な情報発信を継続していくことは、遺伝による差別という問題の解消につながる手掛かりになると信じている。DNA、ゲノム、遺伝子などゲノム医療そのものを理解するのは難しいことで、時には苦い事実を伝えなくてはならいこともあるが、そうした積み重ねが、理解を広めていくことにつながるのではないかと思う」。

このセッションのアーカイブ配信は2024年2月29日まで(有料)です。

アーカイブ配信用のチケット発売中

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