特定の造血幹細胞遺伝子治療における副作用の白血病、発症メカニズムを明らかに

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. レトロウイルスベクターを用いた慢性肉芽腫症の遺伝子治療において一部で白血病が発症するが、詳細な機序は不明だった
  2. 治療後に白血病を発症した患者さんの血液細胞について細胞学的・遺伝学的な解析を実施
  3. ベクターのゲノムへの組み込みだけでなく、がん抑制遺伝子の欠損も起こり細胞ががん化したと判明

造血幹細胞遺伝子治療後の白血病発症、詳細な発症機序は不明だった

国立成育医療研究センターを中心とした研究グループは、レトロウイルスベクターによる造血幹細胞に対する遺伝子治療を受けた後に白血病の一型である骨髄異形成症候群を発症した患者さんの詳細な発症機序を明らかにしたと発表しました。

現在、さまざまな難治性の遺伝性疾患に対して、遺伝子治療が開発され、その有効性が報告されています。今後も普及が進んでいくと考えられている遺伝子治療がより安全に行われるために、遺伝子治療特有の副作用に対して発症機序に基づいた早期発見や予防策が必要となることが予想されます。

遺伝子治療では、細胞に遺伝子を組み込む際、遺伝子の運び屋である「ベクター」を使います。研究グループは、過去に主に使用されていた「レトロウイルスベクター」という種類のベクターを用いた慢性肉芽腫症(原発性免疫不全症候群の一種)の遺伝子治療において、一部の患者さんに副作用として白血病の発症が報告されたことに着目しました。

慢性肉芽腫症は、体内に侵入した細菌やカビなどを免疫の力で除くことができず、生まれた直後より重い感染症にかかる遺伝性疾患です。慢性肉芽腫症を含む原発性免疫不全症候群の治療法には、他の人(ドナー)からの造血幹細胞移植のほか、自分の造血幹細胞に正常遺伝子を組み入れ正常な免疫細胞を産生させる遺伝子治療が有効となる場合があります。

初期のレトロウイルスベクターによる遺伝子治療で報告された白血病は、ベクターがゲノムに組み込まれる際、組み込み部位の近くにがん遺伝子が存在すると、そのがん遺伝子が活性化し、白血病を引き起こすのではないかと考えられていました。しかし、白血病発症は治療後何年も経ってから起こることなどから、発症には他の要因も関わっているとも考えられ、そのメカニズムの詳細は解明されていませんでした。

また、現在では比較的安全とされる「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のレンチウイルスベクター」が用いられていますが、白血病の発症が少ないながらも報告されており、ウイルスベクターによる白血病発症の機序を明らかにすることは、今後の遺伝子治療開発にとって非常に重要となっていました。

ベクター組み込みだけでなくがん抑制遺伝子の欠損も発症原因だった

研究グループは、造血幹細胞の遺伝子治療後に白血病(骨髄異形成症候群)を発症した慢性肉芽腫症の患者さんの血液細胞について、細胞学的・遺伝学的な解析を行いました。

その結果、使用したレトロウイルスベクターの組み込みでがん遺伝子が活性化したことだけでなく、がん抑制遺伝子であるWT1遺伝子の欠損が起こり、その組み合わせによって細胞ががん化(白血病)するという、多段階のメカニズムで発症していることが明らかとなりました。

今回の解析では次世代シーケンサーを始めとする検査法が用いられましたが、こうした検査法などについて研究グループは、「今後遺伝子治療を受ける患者さんの安全性を評価する上で有用な解析系として利用でき、本研究で解明したがん化のメカニズムは、今後発展が期待されるゲノム編集技術を応用した遺伝子治療のより安全で有効な治療法の開発に生かされる」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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