小脳ニューロンの変性で歩行や日常動作が困難になる病気
東京医科歯科大学を中心とする研究グループは、脊髄小脳変性症の治療において病態改善効果が期待されるRpA1タンパク質について、その機能の詳細を明らかにしたことを発表しました。
脊髄小脳変性症1型は、常染色体優性(顕性)形式で遺伝する遺伝性疾患で、Ataxin-1遺伝子のCAG塩基配列の繰り返し数(CAGリピート数)が多くなる「リピート伸長」が、病気の原因であるとされています。この病気では、小脳ニューロンの変性による小脳失調で歩行や日常動作が困難になる、また一部の患者さんで脊髄運動ニューロンの変性による筋力低下や筋萎縮が起こるなどさまざまな症状が引き起こされますが、まだ根本的な治療法は確立されていません。
研究グループは、脊髄小脳変性症1型の疾患モデルショウジョウバエを用いて研究をしていた中で、RpA1という、細胞の中で損傷したDNAを修復する際に働くタンパク質に、強い寿命延長と症状の改善効果があることを発見しました。そのため、このRpA1は、脊髄小脳変性症に対する遺伝子治療への応用が期待されています。
RpA1は他のRpAファミリー分子であるRpA2、3、4のうち2つと合体(複合体を形成)して機能する、というところまでは知られていました。また、RpA1複合体には、正規型RpA1複合体(RpA1、2、3の複合体)、代替型RpA1複合体(RpA1、3、4の複合体)の2種類があることもわかっていました。しかし、これら2種類の複合体がどのように病態へ関与するのかはわかっておらず、今後の治療法開発のために詳細な解析が求められていました。
遺伝子治療でRpA1を導入すると、正規型RpA1複合体が作られDNA損傷修復が促進
研究グループは今回、正規型RpA1複合体、代替型RpA1複合体では、機能が異なることを明らかにしました。
正規型RpA1複合体はDNA損傷修復を促進し、脊髄小脳失調症1型の原因であるCAGリピートを維持もしくは短縮することが明らかになりました。その一方で、代替型RpA1複合体は、逆にDNA損傷修復を阻害しCAGリピート伸長につながると判明しました。
また、変異Ataxin-1遺伝子変異を持つ、疾患モデルマウスにRpA1を導入する遺伝子治療を行ったところ、小脳で主に正規型RpA1複合体が活性化し、それによってCAGリピートが短縮して症状改善につながることが改めて確認されました。
さらに、RpAファミリー分子が、DNA損傷の修復においてどの様に相互作用するのかについて解析を行ったところ、正規型RpA1複合体と代替型RpA1複合体では、損傷したDNAを認識した後に、修復のためにやってくる一連のタンパク質たちとの複合体形成に違いが見られ、そのことから最終的にCAGリピートへの影響が異なると示唆されました。
今回の研究成果は、RpA1によるDNA損傷修復とCAGリピート変異の関係がより明確になったことだけでなく、RpA1の治療効果が再度確認されたという2つの意義がある、と研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)