21水酸化酵素欠損症、簡便で負担の少ない遺伝子検査法を開発

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 21水酸化酵素欠損症の新生児マススクリーニング、確定診断には多量の血液検体を必要とするなどの課題があった
  2. ロングリードシークエンス法を用いて従来法では困難だった遺伝子検査による診断方法を開発
  3. 従来の方法よりも安価で簡便であり、高精度であると確認

副腎皮質からの生命維持に必須のホルモン産生に異常が生じる

東京医科歯科大学を中心とする研究グループは、安価で簡便な21水酸化酵素欠損症の遺伝子検査法を開発したと発表しました。

21水酸化酵素欠損症は、先天性副腎皮質過形成症(CAH)と呼ばれる遺伝性疾患に含まれます。CAHでは、副腎皮質での重要なホルモンの産生に異常が生じ、その9割以上を21水酸化酵素欠損症が占めています。

この病気では、CYP21A2遺伝子の変異によって21水酸化酵素が欠損し、コルチゾールやアルドステロンの産生に問題が生じます。コルチゾールは生命の維持に必須のホルモンであるため、適切な治療が行われない場合には乳幼児期の死亡につながる場合もあります。またコルチゾールの不足を補うために男性ホルモンが副腎皮質から大量に産生されることで、女性の外性器が男性化し、出生時の性別誤認が生じる恐れもあります。そのためこの病気は、新生児マススクリーニングの対象疾患となり、現在は国内のほとんどの患者さんが、新生児期に発見され医療的介入が行われることで、乳幼児期の死亡や、性別を誤認されるケースが非常に少なくなっています。

その一方、新生児スクリーニングで陽性となった赤ちゃんのうち、その後実際にこの病気であると診断されるのは1割から4割で、正確な診断には専門性の高いホルモンの分泌を調べる検査が必要です。しかし、この検査は実施可能な施設が限られ、生まれたばかりの赤ちゃんにとって負担となる多量の血液検体を必要とするなどの課題がありました。遺伝子検査が可能であれば少量の血液で原因となる遺伝子を調べられ結果も明確ですが、原因となるCYP21A2遺伝子はそっくりな構造をもち全く機能しない偽遺伝子(CYP21A1P)と隣り合わせに存在し、それらの組換えの結果複雑な構造をとることが多く、これまでの塩基配列決定方法では解析方法が複雑であるという問題点がありました。

研究グループは、近年開発された新たな塩基配列決定法である「ロングリードシークエンス法」を用い、21水酸化酵素欠損症の遺伝子検査法を開発しました。

解析費用や作業手順を減らし、精度の高い検査を開発

ロングリードシークエンス法は、1回で読むことのできる塩基配列数を飛躍的に増やした塩基配列決定方法で、塩基配列の変化だけでなく遺伝子の構造異常も合わせて把握でき、1つの長いDNA断片を読み込むことにより多くの情報を得ることができるなどの利点があります。研究グループは、その一方でこの方法において課題と考えられてきた、高額な解析費用、構造異常を想定した煩雑な作業、精度の低さなどを解決するため、解析手法の検討を行いました。

その結果、解析費用や作業手順を大幅に減らすことに成功しました。精度は、従来最も信頼できると考えられてきた遺伝子解析方法と比較することで検証し、この疾患と診断がついた55人の遺伝子検査について全ての結果が一致していました。

1検体あたりにかかる解析費用は、従来の方法と比較しても安価で、解析にかかる日数も2~3日から1日と減らすことができました。またこれまでの遺伝子検査解析は正確な塩基配列の変化を決定する上で両親の検体と合わせて3検体の解析が必要でしたが、今回開発した方法は本人だけの解析で診断が可能であり、さらに費用を抑制できると考えられます。

研究グループは、21水酸化酵素欠損症の遺伝子解析について、確定診断方法につながる道を開いただけでなく、偽遺伝子が隣接する、同様の解析困難な遺伝性疾患についても、安価で簡便な検査法を確立することにつながる可能性がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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