大腸にできた腺腫性ポリープが次第に増加、大腸がんを発症しやすい病気
国立国際医療研究センターを中心とする研究グループは、家族性大腸腺腫症における、直径5.0mm以上の大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与治療について、大腸がんの予防効果とその費用対効果の推定を行ったと報告しました。
家族性大腸腺腫症は、若い年齢で大腸にできた腺腫性ポリープが年齢にともない100個以上に増え、適切な治療が行われない場合にはほとんどの人が大腸がんを発症する遺伝性疾患です。
近年、低用量アスピリンの投与による大腸がん予防効果やその費用対効果についての研究が行われています。しかし、それらの研究は一般集団を対象としたものが多く、大腸がんの発症リスクが高いとされる家族性大腸腺腫症の患者さんにおいて検討した研究は行われていませんでした。
研究グループは、家族性大腸腺腫症の患者さんにおいて、5.0mm以上の大腸ポリープの積極的な摘除と低用量アスピリン投与を組み合わせた治療方法と、現在の家族性大腸腺腫症の診療ガイドラインに沿った治療方法を比較し、大腸がんの予防効果と費用対効果を検討しました。
大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与の組み合わせで高い費用対効果
研究グループは、日本人の家族性大腸腺腫症患者さんに8か月間低用量アスピリンを投与した臨床試験のデータに基づく低用量アスピリンの効果から、シミュレーションモデルの手法を用いて、1)大腸腺腫の治療をしない、2)直径5.0mm以上の大腸ポリープの積極的摘除のみを行う、3)大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与を組み合わせる、4)診療ガイドラインに沿った治療(大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術)、の4つの場合について、それぞれの大腸がん死亡率と治療における費用、また病気の重症度に応じた生活の質を考慮に入れた費用対効果を比較解析しました。
大腸がんの死亡率を比較した結果、1)治療を行わなかった場合と比較すると、2)大腸ポリープ積極的摘除のみ、3)大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与、4)大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術の3つの治療ではいずれも大幅な死亡率減少につながっており、特に4)の大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術死亡率の減少幅が大きいことがわかりました。
また、生存年数を病気の重さに応じた生活の質を考慮に入れて点数化した質調整生存年と、質調整生存年を1年延伸するために支払ってもよいと考える金額を5万ドルとした場合、3)の大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与を組み合わせた治療法が、他の治療法よりも費用対効果に優れることが示唆されました。
一方、研究グループは、今回用いたモデルは、家族性大腸腺腫症の患者さんにおける代表性の高いデータであるとしながらも、シミュレーションはさまざまな仮定の下に行った推定であり解釈には注意が必要であること、データの限界からより長期にわたる低用量アスピリンの効果と安全性、喫煙状況別の結果は検討されていないため、データの整備がされ次第、より精緻な推計を行う必要がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)