家族性大腸腺腫症

遺伝性疾患プラス編集部

家族性大腸腺腫症の臨床試験情報
英名 Familial adenomatous polyposis
別名 家族性腺腫性ポリポーシス、家族性大腸ポリポーシス、FAP
発症頻度 日本人一般集団1万7,400人に1人、日本の大腸がん患者さんの1%未満
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体優性(顕性)遺伝形式)
発症年齢 典型例では10歳代で大腸にポリープができ始める
性別 男女とも
主な症状 若いうちから大腸に腺腫性ポリープが100個以上できる、大腸がんを発症する
原因遺伝子 APC遺伝子
治療 定期検診などによるサーベイランス、大腸の予防的切除、など
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どのような病気?

家族性大腸腺腫症(FAP)は、若いうちから大腸に腺腫性ポリープができ、その数は年齢とともに増えて100個を超え、治療をしないとほぼ全員が大腸がんを発症する、遺伝性疾患です。典型的な例では、10歳代で大腸にポリープができ始め、徐々に数が増え、放っておくと40歳代までに約半数が、60歳代にはほぼ全員が大腸がんを発症します(浸透率ほぼ100%)。10歳代での大腸がんの報告もあります。

できた大腸腺腫の密度によって、密生型FAP(>1,000個)、非密生型FAP(100~1,000個)、attenuated FAP(10~99個)と分類し、密生型FAPと非密生型FAPをあわせて典型的FAPと呼ぶこともあります。これらの個数は目安であり、数で厳密に区別されるものではありません。腺腫の密度は、大腸がんの発症リスクに関連すると考えられており、大腸癌研究会(JSCCR)編の「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版」には、同研究会の多施設共同研究により、「密生型FAPはその他のFAPと比べて腺腫発生の年齢やがん化の年齢が早く、密生型で40歳、非密生型で47歳、attenuated型で55歳になると半数に大腸がんの発生がみられた」と、記載されています。

FAPで多発するのは「腺腫性」ポリープですが、「過誤腫性」ポリープという別の種類のポリープが100個以上多発する病気もあります。これらはまとめて消化管ポリポーシスと呼ばれますが、それぞれ異なる病気として区別されます。過誤腫性ポリープが多発する病気は、ポイツ・ジェガース症候群カウデン症候群などです。

FAPでは大腸のほかに、胃、十二指腸、小腸にも腺腫性ポリープができることがあり、大腸がんのほかに、甲状腺がん、骨腫瘍、デスモイド腫瘍(軟部腫瘍の1つ)などのがんができることもあります。

たくさんできたポリープが原因で、下血、腹痛、下痢などが見られる場合がありますが、ポリープそのものは、多くは無症状です。

FAPで見られる症状

高頻度に見られる症状

腺腫性大腸(結腸・直腸)ポリポーシス、結腸がん、先天性の網膜色素上皮腫大、デスモイド腫瘍

良く見られる症状

消化管の腫瘍、歯列の異常、十二指腸ポリポーシス、胃ポリープ、骨腫瘍

しばしば見られる症状

歯根表面のセメント質の異常、甲状腺の異常、血管線維腫、十二指腸腺がん、埋没歯、副腎腫瘍、歯牙腫、甲状腺乳頭がん、過剰歯(歯の数が通常より多い)

まれに見られる症状

星細胞腫、胆道閉塞、脳腫瘍、胆管がん、上衣腫、類表皮嚢胞、線維腫(良性腫瘍)、甲状腺腫(甲状腺の肥大)、肝芽腫、甲状腺機能低下症、脂肪腫、限局性皮膚病変、髄芽腫、胆嚢の腫瘍、膵臓腺がん、膵炎、下垂体腺腫、胃がん、甲状腺炎

日本遺伝性腫瘍学会のサイトに掲載の資料によると、日本の全人口の中で1万7,400人に1人がFAPと推定されています。世界的には、7,000人~2万2,000人に1人がFAPと報告されています。また、日本の大腸がん患者さん全体のうち、FAPは1%未満です。

FAPは、小児慢性特定疾病の対象疾患です。

何の遺伝子が原因となるの?

FAPの原因として最も多く見つかっているのが、APC遺伝子(染色体位置:5q22.2)です。この遺伝子に病的バリアント(ポリープ・がんの発症につながるDNA配列の特徴)がある場合、FAPとなります。

APC遺伝子は、がん抑制因子の仲間であるAPCタンパク質の設計図となる遺伝子です。APCタンパク質は、細胞の増殖・分裂が速すぎたり制御不能になったりするのを防ぐ役割を持ちます。分裂後の細胞内の染色体数が正しいことを確認する過程でも働いています。APCタンパク質は、主に細胞接着やシグナル伝達に関わる他の複数のタンパク質(βカテニンなど)と一緒に、こうした働きを担っています。

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米国国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国国立医学図書館(NLM)が運営する医療情報サイトMedlinePlusでは、もう1つ、MUTYH遺伝子(染色体位置:1p34.1)も、FAPの原因遺伝子として挙げられています。MUTYH遺伝子は、DNAの修復に関与するMYHグリコシラーゼという酵素の設計図となる遺伝子です。通常、DNAは、アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)がペアになっていますが、Gが酵素によって変化しCのかわりにAとペアになることがあります。MYHグリコシラーゼは、このエラーを修正する酵素です(塩基除去修復)。この遺伝子に病的バリアントがあり、MYHグリコシラーゼが正しく働かないと、DNAにエラーが蓄積し、家族性腺腫性ポリポーシスを発症します。大腸癌研究会(JSCCR)編の「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版」では、この遺伝子の病的バリアントによる家族性腺腫性ポリポーシスは、FAPとは区別し、MUTYH関連ポリポーシス(MAP)と診断されます。

FAPと診断された人のうち、原因と考えられる遺伝子の病的バリアントが見つかる割合は、70%程度です。残りの約30%では原因となる病的バリアントが見つかりません。

APC遺伝子の病的バリアントは、常染色体優性(顕性)遺伝形式で親から子へ遺伝します。両親のどちらかがいずれかの原因遺伝子に病的バリアントをもっている(FAPである)場合、子どもが病的バリアントを受け継ぎ、FAPとなる確率は50%です。なお、親がFAPで子どもがFAPではない場合、その子の子ども(孫)は、世代をまたいでFAPになることはありません。

Autosomal Dominant Inheritance

また、両親がFAPではなくても、子どもがFAPになる場合もあります。これは、卵子や精子が形成される際に偶然起きた遺伝子の変化が原因となる場合で、新生変異と呼ばれます。

さらに、受精後の発生初期(どの細胞がどの臓器・組織の細胞になるのか決まっていく初期)の体細胞の一つにAPC遺伝子の病的バリアントが生じた場合、APC遺伝子に病的バリアントがある細胞と、ない細胞が混在するモザイク状態(体細胞APCモザイク)となることがあります。大腸の粘膜細胞となる予定の細胞にこの異常が起きると、FAPと同様に大腸腺腫が多発します。

APC遺伝子の病的バリアントが明らかになったFAP患者さんの1.6~4%でAPCモザイクが認められ、家族歴のないFAP患者さんの11~20%が体細胞APCモザイクだったという報告もあります。また、近年、次世代シーケンサーを用いてより詳細な遺伝学的解析が可能になり、従来法では病的バリアントが認められなかったFAP患者さんの25〜50%に低頻度の病的バリアントが認められるようになりました。APC遺伝子の病的バリアントが生殖細胞の一部に存在する「性腺モザイク」だった場合は、子どもにFAPが遺伝する可能性があります。

MUTYH関連ポリポーシスは、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で親から子へ遺伝します。ほとんどの場合、MUTYH関連ポリポーシスの患者さんの両親はそれぞれ、病的バリアントをもつMUTYH遺伝子のコピーを1つずつ持っていますが、病気を発症していない保因者となっています。そのため、MUTYH関連ポリポーシスを発症する患者さんは、非常にまれです。

どのように診断されるの?

大腸内視鏡検査で大腸に100個以上のポリープが認められ、ポリープの病理組織診断で腺腫と診断された場合、家族歴の有無を問わず、FAPと診断されます。

FAPの家族歴を有する(ご家族にFAPと診断された人がいる)場合、大腸に見つかった多発性腺腫が100個未満であっても、FAPと診断されます。その際、大腸外随伴病変が補助診断として参考にされます。

大腸外随伴病変:先天性網膜色素上皮肥大、胃底腺ポリポーシス、胃腺腫、十二指腸ポリポーシス、十二指腸乳頭部腺腫、空・回腸腺腫、デスモイド腫瘍、頭蓋骨腫、顎潜在骨腫、歯牙異常(過剰歯、埋没歯)、類上皮腫、甲状腺がん、子宮がん、肝芽腫、副腎腫瘍、脳腫瘍など。また、FAPの77~90%に、大腸腺腫よりも早期に出現する非腫瘍性の網膜色素上皮腫大が認められます。

APC遺伝学的検査により、同遺伝子に病的バリアント(胚細胞変異)を有するとわかった場合も、FAPと診断されます。2023年1月現在、APC遺伝子の遺伝学的検査は保険収載されていません。遺伝学的検査は、結果の解釈など、とても専門的な検査です。わからないことや心配なこと、検査を受けるタイミングなどを含め、検査を受ける前から、担当の医師や認定遺伝カウンセラー(R)などと、よく話し合いましょう。

FAP遺伝子の病的バリアントが原因で、大腸腺腫性ポリポーシスに軟部腫瘍、骨腫、歯牙異常、デスモイド腫瘍を伴うGardner症候群、および、大腸線腫性ポリポーシスに脳腫瘍(主に小脳の髄芽腫)を伴うTurcot症候群(type2)も、FAPとして扱われます。そのほかの疾患を含め、APC遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とするポリポーシスは、まとめて「APC関連ポリポーシス」と呼ばれることがあります。

どのような治療が行われるの?

今のところ、ポリープの数を減らす飲み薬や点滴薬、確実にがんの発症を防ぐ薬などは、まだありません。そのため、大腸ポリープが大腸がんになる前に、大腸を切除するなどの処置が行われます。

ポリープは100個以上、人によっては数千個の場合もあるため、大腸カメラで1つずつポリープを取り除くのは難しく、大腸を切除する手術が勧められます。この手術は、ポリープががんになる確率が低いとされる20代までに行うよう勧められています。最近では、傷跡が小さく済む腹腔鏡下で手術が行われることも増えています。

大腸の切除について、大腸全摘が今のところ最も大腸がんを予防できるとされていますが、ポリープの数や、同じFAPのご家族の病状などによって、大腸を一部残す場合もあります。この場合には、残した大腸にポリープやがんができる可能性があるため、検査や処置を継続的に受けることになります。

女性の場合、大腸全摘が妊娠のしやすさに影響するという報告もありますが、一般の人と変わらないという報告もあり、まだはっきりとしたことはわかっていません。出産に関しては、その人の手術方法や手術後の状況によって、気を付けることなどが異なるため、担当医に相談しましょう。

FAPによる大腸以外の症状については、定期的な検査と評価(サーベイランス)により、適切な対応を受けていきます。例えば、胃と十二指腸のポリープはがんになることがあるので、定期的に胃カメラの検査を受け、ポリープの数やできている場所を確認します。ポリープの数が増えてきたり、がんが見つかったりした場合、切除となります。典型的なFAPの場合、10歳を過ぎた頃から1~2年間隔で、ポリープが100個未満のFAP(attenuated FAP)では、10代後半(18~20歳)から2~3年間隔でサーベイランスを受けることが強く推奨されています。

甲状腺のサーベイランスは、首の触診や超音波検査で行われます。デスモイド腫瘍の検査は、おなかの触診やCT検査で行われます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本全国の「暫定遺伝性腫瘍指導医」とその所属医療機関は、一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会ウェブサイトの「暫定遺伝性腫瘍指導医のリスト」からご確認頂けます。

患者会について

家族性大腸腺腫症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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