アレキサンダー病、病態の進行に関与する脳細胞とメカニズムを解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. アレキサンダー病の発症年齢や重症度などは同じ遺伝子変異でもさまざま
  2. 変異が見られる脳細胞「アストロサイト」と同じグリア細胞の仲間「ミクログリア」に着目
  3. ミクログリアも関与すると発見、アストロサイトの異常を感知し病態を抑制する働きをもつと判明

原因遺伝子は同じでも症状や経過は多様

山梨大学を中心とした研究グループは、「アレキサンダー病」の病態進行抑制に関与する細胞を発見したことを報告しました。

アレキサンダー病は、非常にまれな難治性の神経変性疾患で、新生児から高齢者まで幅広い年齢で発症します。新生児から乳児期に発症する場合には、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れが出現し、生命予後が不良な場合も多いとされています。成人期に発症する患者さんでは、新生児から乳児期に発症する患者さんと比較すると生命予後は良いものの、手や足の運動障害、嚥下障害、排尿困難など日常生活に大きな支障を来すことも多いとされます。しかし、この病気に対する根本的な治療法は確立されていません。

この病気ではほとんどの患者さんにおいてGFAP遺伝子に変異が認められます。GFAP遺伝子は、脳の細胞のうち神経細胞以外の細胞であるグリア細胞の一種、アストロサイトだけで働く遺伝子で、そのためアレキサンダー病は一次性アストロサイト病と呼ばれることもあります。しかし、同じGFAP遺伝子の変異を持っている患者さんでもアレキサンダー病の発症年齢や重症度などは個人差がありGFAP変異以外あるいはアストロサイト以外の要因が病態に関与しているのではないかと考えられていました。

グリア細胞には、アストロサイト以外にもミクログリアと呼ばれる細胞が存在します。ミクログリアは、中枢神経の免疫細胞として病原体などを除去する役割を担うだけでなく、脳疾患などによる脳内環境の変化を検知して性質を素早く変え、疾患抑制や悪化に関与することが知られています。研究グループは、このミクログリアに着目し、アレキサンダー病の病態との関連を調べました。

アストロサイトだけでなく、ミクログリアの性質も大きく変化

研究では、GFAP遺伝子に変異を導入したアレキサンダー病のモデルマウスを用い、アストロサイトやミクログリアの形態や性質の変化、細胞ごとの遺伝子発現などを解析しました。その結果、このモデルマウスの脳ではアストロサイトが異常な性質を示しているだけでなく、ミクログリアの形態や性質も大きく変化していました。

そこで、さらに解析を進めたところ、ミクログリアはアストロサイトの異常を「P2Y12受容体」と呼ばれるタンパク質で感知し、自身の形態や性質を変化させていることがわかりました。このP2Y12受容体を抑制する阻害薬をアレキサンダー病モデルマウスに投与したところ、マウスの脳の海馬においてアレキサンダー病の病態の指標であるローゼンタール線維が増加し、ミクログリアがアストロサイトの異常を感知できなくなることで病状が悪化したことがわかりました。

これらの結果から、これまで着目されていなかったミクログリアが、アストロサイトの病態を監視することでアレキサンダー病の病態進行に関与していることが示唆されました。研究グループは、今後ミクログリアを治療標的とした新たな戦略が、治療薬開発につながることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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