シャルコー・マリー・トゥース病、PMP22遺伝子のゲノム編集による新たな治療法開発

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. CMT1A型は、PMP22遺伝子の長いゲノム領域の重複により末梢神経障害が引き起こされる
  2. CMT1A患者さん由来のiPS細胞を用いて、ゲノム編集での治療法開発
  3. 重複したゲノム領域の切り出しに成功、用いた細胞で見られた病的変化の軽減を確認

発現レベルを抑え過ぎず適切に正常化することが課題

東京医科歯科大学を中心とした研究グループは、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の原因遺伝子の一つであるPMP22の、ゲノム編集を用いた新たな治療方法を開発したと報告しました。

CMTは、厚生労働省の指定難病対象疾病(指定難病10)で、代表的な末梢神経変性疾患です。CMTの4割を占めるCMT1A型は、17番染色体上のPMP22(peripheral myelin protein 22)遺伝子を含む長いゲノム領域が重複して存在することによって、PMP22タンパク量が増加し、末梢神経の近くに存在しその働きに必須であるシュワン細胞の機能が失われると考えられています。末梢神経は、脳脊髄から手足の筋肉に運動の指令を伝え、手足の感覚を脳脊髄に伝えるはたらきを持つため、CMT1Aでは手足の運動感覚障害のほか、少しずつ手足の機能が衰え生活に支障を来すこともあります。

CMTには現時点で根本的な治療法は開発されていませんが、近年、shRNA、miRNA核酸医薬といった治療法が実験的に提案されています。しかし、1.5倍程度のPMP22の発現増加を適切なレベルに正常化することは難しく、開発の課題となっていました。PMP22の遺伝子変異による機能低下は、遺伝性末梢神経疾患(HNPP)と呼ばれる別の疾患の原因となることが知られており、治療で過度にPMP22発現を抑制してしまうと逆に症状が悪化してしまうことが予想されます。

さらに、これまでの治療法開発では、実験的な治療対象として10倍近くPMP22が過剰発現したマウスが用いられるなど、研究に用いるモデル動物も適切ではない可能性がありました。

今回、研究グループは、患者さん由来のiPS細胞を用いてゲノム編集を行うことで、この問題を解消し、新たな治療方法を開発しました。

ゲノム編集で1.5Mbゲノム領域の切り出しに成功、患者さん由来細胞の病的変化を軽減

研究グループは、ゲノム編集技術を用いて、CMT1A患者さんのシュワン細胞では3つある1.5Mbゲノム領域を、2つに戻して正常化する方法を開発しました。異常なゲノム2か所に切れ目を入れ、その間にある余分なゲノム領域が切り出されるように設計して遺伝子変異のない細胞でゲノム編集を行ったところ、15~40%の確率で、重複したゲノムが狙い通りに切り出されることがわかりました。

次に、CMT1A患者さん由来iPS細胞から作成したシュワン細胞に、開発したゲノム編集を行う遺伝子治療ベクターを投与し、その治療効果を調べました。その結果、これらの細胞で見られていた病的変化が軽減することが明らかになりました。

研究グループは、今回の研究成果は、シャルコー・マリー・トゥース病について、これまで開発が試みられてきた治療法とは全く異なる、ゲノム正常化という新しいコンセプトの治療法の可能性を示した、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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