免疫不全によって幼少期までに重篤な感染症を発症
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、原発性免疫不全症候群に含まれる疾患の一つである細網異形成症で見られる好中球成熟障害を、ミトコンドリアピルビン酸キャリアの阻害剤が改善できる可能性を示したと発表しました。ミトコンドリアピルビン酸キャリアとは、エネルギー源となるATPを合成するのに必要なピルビン酸をミトコンドリアに運ぶタンパク質のことです。
細網異形成症は、アデニル酸キナーゼ2(AK2)遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患です。この病気では、免疫細胞がうまく働かないこと(免疫不全)によって通常生後数か月以内に重篤な感染症を発症し、造血幹細胞移植を行わなければ幼少期に命を落とすこともあります。
細網異形成症の免疫不全は、リンパ球減少のほかに、好中球の成熟が障害されることによる好中球減少症が見られることが特徴です。好中球減少症は細菌感染症のリスクを高め、生命予後や造血幹細胞移植の成否にも影響します。研究グループは、好中球減少症を改善する化合物の探索を目指しました。
発見した化合物添加で患者さん由来iPS細胞とAK2欠損株の好中球成熟を改善
研究グループは以前の研究で、細網異形成症患者さん由来iPS細胞から作製した造血前駆細胞で、ミトコンドリアにエネルギー源のATPが溜まってうまく核にそれらのATPが供給されにくくなることを発見していました。その結果を踏まえ、今回、ミトコンドリアピルビン酸キャリアの阻害剤であるUK-5099を用いて、細胞内のエネルギー分布を変更し造血前駆細胞が好中球に分化する能力に影響を与えるかどうかを調べました。
濃度10μMのUK-5099を治療に用いた結果、細網異形成症患者さん由来のiPS細胞からの好中球の成熟は改善し、成熟好中球の割合が有意に増加しました。しかし、より高濃度の50μMのUK-5099添加では、逆に成熟好中球数の減少が確認されました。
次に、AK2遺伝子を欠損させた多能性幹細胞を作成し、この細胞株から分化させた好中球が、AK2遺伝子を欠損させていない野生型の細胞に比べて好中球の成熟が著しく低下していることを確認しました。UK-5099を添加したところ、野生型の多能性幹細胞株の好中球成熟には影響を与えず、AK2欠損株でのみ好中球成熟の改善が認められました
これらの結果から、UK-5099とミトコンドリアピルビン酸キャリアは、細網異形成症の好中球減少に対する有望な治療につながる可能性が示唆されました。研究グループは、今後さらなる研究により、UK-5099がどのように働くか詳細なメカニズム解明が必要、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)