糖原病Ia型の新規核酸医薬候補を発見、東アジアに多いスプライシング異常が標的

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 国内の糖原病Ia型、G6PC遺伝子のc.648G>T変異によるスプライシング異常が多い
  2. 肝臓で長期に安定して存在しながら治療効果を示す核酸医薬(SSO)を設計・開発
  3. 開発したSSOの投与で変異誘導マウスの低血糖、肝臓症状など改善を確認

肝臓などで働く酵素の異常で、低血糖・肝腫大・腎障害などを示す

広島大学を中心とした研究グループは、糖原病Ia型の核酸医薬による治療効果をヒト細胞と病態モデル動物を用いて示したことを報告しました。

糖原病Ia型は、肝型糖原病の一つで、肝臓や腎臓で働くグルコース6リン酸脱リン酸酵素(G6Pase)の設計図となるG6PC遺伝子に変異が生じることによって、酵素の機能が失われ、低血糖や肝腫大、腎障害を示す遺伝性疾患です。現在のところ根本的な治療法はなく、低血糖発作を予防するため、夜間も含めた食事療法(数時間ごとのコーンスターチ摂取や特殊ミルクの頻回摂取)などを中心とした血糖管理が行われます。しかし、低血糖に対する不安や患者さんの家族の負担が大きく、肝腫大が肝腺腫に発展することも少なくありません。

現在、新しい治療法開発のために遺伝子治療やメッセンジャーRNA(mRNA)治療の臨床試験が行われていますが、アデノ随伴ウイルス(AAV)での遺伝子治療は有効期間が限られること、mRNA治療は何度も静脈注射が必要で投与間の血糖値管理が煩雑であるなど、長期間安定的な疾患管理を可能にするためにまだ課題があります。

これまでに、糖原病Ia型の原因となるG6PC遺伝子に発生する頻度が高い変異は人種により異なっていること、日本・韓国・中国などの東アジアの患者さんで検出される変異は「c.648G>T」が多いことが知られています。c.648G>Tは、スプライシングと呼ばれる、遺伝子からタンパク質が作られる際に写し取ったRNAの中でタンパク質の設計図とならない配列を切り出してつなぎ合わせる過程で異常(スプライス変異)を生じさせ、G6Paseの機能を損なわせることがわかっていました。

研究グループは、近年スプライシングを制御する技術として注目されている、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド(SSO)療法を用いて異常なスプライシングを是正することで、正常なG6Paseが作り出され、糖原病Ia型の症状改善が期待できるのではないかと考えました。

核酸医薬で変異マウスの低血糖症状・肝腫大などを改善

SSO(スプライシング制御オリゴヌクレオチド)は、スプライシングが行われる前のmRNA(pre-mRNA)に結合して本来のスプライシングの代わりとなるスプライシングを誘導し、機能的なタンパクを産生するアンチセンス核酸と呼ばれる核酸医薬です。

研究グループは、c.648G>Tによる異常スプライシングを修正でき肝臓で長期間安定的に局在するような化学修飾を付与したSSO「DS-4108b」を開発しました。G6PC遺伝子にc.648G>T変異のあるヒト培養細胞と、薬剤誘導型の変異マウスを用いてその効果を検証したところ、DS-4108bがc.648G>T変異のあるヒト培養細胞においてG6PC遺伝子の異常スプライシングやG6Paseの活性低下を回復させ、変異マウスへのDS-4108b皮下投与により、G6PC異常スプライシングやG6Pase活性低下への効果だけでなく、絶食時低血糖の改善、肝臓の代謝全体の改善、グリコーゲンや脂質蓄積の低下、肝腫大などの症状が改善されることがわかりました。

さらに、マウスやサルを用いて、薬物動態や安全性の試験を行ったところ、DS-4108bは良好なプロファイルを示し、月一回程度の投与頻度で空腹時低血糖の予防と、肝腫大などの従来治療介入困難だった症状の改善が期待できる可能性が示唆されました。

研究グループは、今回開発したSSOの効果について、マウス実験で投与開始時点の病態進行度による有効性や、腎症状に対する効果について明らかにしていきたいと考えている、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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