肝型糖原病

遺伝性疾患プラス編集部

肝型糖原病の臨床試験情報
英名 Hepatic glycogen storage disease
別名 糖原病I型(フォン・ギールケ病、Ia型;グルコース-6-ホスファターゼ欠損症、 Ib型;グルコース-6-リン酸トランスポーター異常症)、糖原病III型(Cori病、フォーブズ病、IIIa型/IIIb型グリコーゲン脱分枝酵素欠損症、IIIc型グルコシダーゼ欠損症、IIId型トランスフェラーゼ欠損)、糖原病IV型(アンダーセン病、グリコーゲン分枝酵素欠損症)、糖原病VI型(ハース病、肝グリコーゲンホスホリラーゼ欠損症)、糖原病IX型(ホスホリラーゼキナーゼ欠損症)
日本の患者数 約1,200人と推定(令和4年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数105人)
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 不明
子どもに遺伝するか 遺伝する[常染色体劣性(潜性)遺伝形式もしくはX連鎖劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 病型によりさまざま(多くは幼児期までに発症)
性別 男女とも
主な症状 肝臓の腫れ、低血糖、肝硬変、肝腫瘍など
原因遺伝子 糖原病I型(G6PC、SLC37A4)、糖原病III型(AGL)、糖原病IV型(GBE1)、糖原病VI型(PYGL)、糖原病IX型 (PHKA2、PHKB、PHKG2)
治療 対症療法(食事療法など)
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どのような病気?

糖原病とは、糖の一種であるグリコーゲンの生成や分解が行われないことで引き起こされる病気で、肝型糖原病は、そのうち肝臓に主な症状が見られる遺伝性疾患です。肝型糖原病の主な症状は肝臓の腫れ(肝腫大)、低血糖のほか、大人になってから肝硬変や肝腫瘍を発症する、などです。糖原病には多くの種類があり、その中で肝型糖原病に分類されるのは、I型、III型、IV型、VI型、IX型と呼ばれる糖原病です。それぞれの病型ごとに症状や重症度が少しずつ異なります。

糖原病I型では、低血糖と肝臓の腫れが特に強く現れます。この病型での重篤な症状は、乳酸アシドーシス(酸血症)で、血中の乳酸値の上昇により、嘔吐などの初期症状の後、過呼吸や昏睡などに進行し命を落とすこともあります。

症状は生後3~4か月頃から見られ、赤ちゃんのころから低血糖のほかてんかん発作が見られることもあります。低血糖を何度も繰り返すことで、成長や発達が遅れ始め、糖原病I型の子どもは、年齢が上がるにつれ手足が細く、身長が低くなります。また、肝臓の腫れによって、腹部が突き出たように見えることがあります。特徴的な顔立ちは、人形様とも呼ばれ丸顔で頬がふっくらとしています。代謝異常の結果、高脂血症、高尿酸血症などが引き起こされることや、血小板の機能が損なわれ、頻繁に鼻血がでる(鼻出血)などの症状(出血傾向)が見られる場合もあります。

そのほかにも、腎臓の肥大、下痢、黄色腫と呼ばれる皮膚へのコレステロールの沈着、思春期の遅れ、若年期から中年期頃の骨粗しょう症、高尿酸血症が原因となる痛風、腎臓病、肺高血圧症(肺に血液を供給する動脈の高血圧)、肝臓の腫瘍(腺腫)、女性では多嚢胞性卵巣などが見られます。糖原病I型はIa型とIb型に分かれ、Ib型では、好中球と呼ばれる、免疫に重要な白血球の一種が減少することで、感染症にかかりやすくなる症状のほか、虫歯や歯肉炎などの口腔内の症状もみられます。

糖原病III型では、低血糖と肝臓の腫れの他に、進行性の心筋症が半数に見られます。糖原病III型は、糖原病I型よりも低血糖は比較的軽度で肝臓の症状も成長とともに改善することが多いとされます。

経過としては、乳児期より低血糖、高脂血症、肝臓の酵素の血中濃度上昇が見られます。年齢が上がるにつれ肝臓の肥大も見られます。多くの場合青年期には肝臓の大きさが正常に戻りますが、中には歳をとってから肝硬変や肝不全を発症する人もいます。糖原病I型と同様、人形様と呼ばれる特徴的な顔立ち、成長が遅れることによる低身長、腺腫と呼ばれる肝臓の腫瘍なども見られることがあります。糖原病III型は欠損する酵素活性の種類と症状の見られる臓器によってさらにIIIa、IIIb、IIIc、IIId型などに分かれ、このうち肝臓と筋肉の両方に症状が見られるIIIa型がこの病型の8割以上とされています。

糖原病IV型は、発育不全、肝臓と脾臓の肥大(肝脾腫)、進行性の肝硬変や肝不全が見られます。通常乳児期から症状が始まります。非進行性の肝疾患や、重度の神経筋症状が見られる場合もあり、重症度はさまざまです。糖原病IV型は重症度や症状によって以下1)~5)の5つのタイプに分けられます。

1)肝型(重症肝硬変型):低血糖は見られませんが、乳児期から進行する肝不全、肝硬変、脾腫のほか筋緊張低下がみられます。

2)非進行性肝型:肝機能異常はそれほど重篤ではなく、肝硬変を発症することはありません。

3)致死新生児神経・筋型:糖原病IV型の中で最も重篤な症状を示し、出生前(胎児期)に、胎児無動変形シークエンスと呼ばれる、胎児の運動低下や出生後の関節の拘縮といった症状のほか、羊水過多、重度の筋緊張低下、筋力低下などの神経症状をきたします。心臓や呼吸をするための筋肉が弱く新生児期を過ぎると致死となります。

4)幼児筋・肝型:筋力低下と肝機能異常が見られます。

5)成人型(ポリグルコサン小胞体病):40歳以降に認知症や神経症状が見られます。

糖原病VI型糖原病IX型では、I型と同様、低血糖、肝腫大、低身長、腹部膨満、人形様と呼ばれる顔立ち、などの症状が見られますが、I型よりも症状は軽く年齢が進むにつれて症状がさらに軽くなるとされます。糖原病IX型は、さらにIXa、IXb、IXc、IXd型の4つの型に分かれ、肝臓に症状が見られるのはIXa、IXb、IXc型となりますが、IXb型では運動の遅れなどの軽度のミオパチー症状のような筋肉の症状も見られます。

肝型糖原病において、日本での正確な患者数はわかっていません。肝型糖原病全体での発症頻度は2万人に1人程度であり、そこから推定される患者数は約1,200人となっています。

肝型糖原病は、指定難病対象疾病(指定難病257)、また、糖原病I型、糖原病III型、糖原病Ⅳ型、糖原病VI型、糖原病IX型として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

糖原病は、糖の一種であるグリコーゲンを分解し、エネルギーとする過程で働く酵素の遺伝子変異が起こり、その酵素の機能が失われることで発症します。

グリコーゲンは、ブドウ糖(グルコース)がたくさんつながったような構造をしており、肝臓や筋肉に蓄えられてエネルギー源として使われます。蓄えられたグリコーゲンはいくつもの酵素の働きによって分解されグルコースとなりますが、一連の経路の中で働く酵素のどれかが損なわれることで、グリコーゲンは分解されずに蓄積されることになります。その結果、空腹時などにグリコーゲンがうまく使えないことで低血糖となり、グリコーゲンが肝臓などに蓄積するために肝臓の腫れなどの症状が現れます。酵素の働く部位により糖原病は肝型と筋型に大きく分けられ、肝型糖原病では肝臓に主な症状が見られます。

肝型糖原病の原因となる遺伝子は、病型ごとに異なります。

肝型糖原病の原因として知られる遺伝子

病型

染色体の領域

原因遺伝子

欠損する酵素

遺伝形式

Ia型

17q21.31

G6PC

グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)

常染色体劣性(潜性)遺伝

Ib型

11q23.3

SLC37A4

グルコース-6-リン酸トランスロカーゼ

常染色体劣性(潜性)遺伝

III型

1p21.2

AGL

グリコーゲン脱分枝酵素

常染色体劣性(潜性)遺伝

IV型

3p12.2

GBE1

グリコーゲン分枝酵素

常染色体劣性(潜性)遺伝

VI型

14q22.1

PYGL

グリコーゲンホスホリラーゼ

常染色体劣性(潜性)遺伝

IXa型

Xp22.13

PHKA2

グリコーゲンホスホリラーゼキナーゼ(αサブユニット)

X連鎖劣性(潜性)遺伝

IXb型

16q12.1

PHKB

グリコーゲンホスホリラーゼキナーゼ(βサブユニット)

常染色体劣性(潜性)遺伝

IXc型

16p11.2

PHKG2

グリコーゲンホスホリラーゼキナーゼ(γサブユニット)

常染色体劣性(潜性)遺伝

116 肝型糖原病 仕組み 230626
肝臓で蓄えられていたグリコーゲンは、グルコース1リン酸、グルコース6リン酸を経てグルコースに変換される。グルコースがグリコーゲンに変換される時は逆向きとなる。青い枠内に肝型糖原病に関わる酵素と欠損による肝型糖原病の病型を示した。

 

肝型糖原病は、多くの場合、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父母から受け継いだ両方の遺伝子に変異があることで発症し、両親はこの病気の保因者ではありますが、病気は発症しません。

Autosomal Recessive Inheritance

また、病型がIXa型である場合には、X連鎖劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式は、性別によって遺伝する確立が異なります。男性(XY)はX染色体を1本しか持たないため、原因遺伝子が存在するX染色体を引き継いだ場合に必ず発症しますが、女性(XX)は2本持つため、病気を発症せず保因者となります。女性である母親が保因者である場合は、50%の確率でその原因遺伝子が存在するX染色体を娘または息子に受け継がせることになります。

X Linked Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

肝型糖原病において、I、III、VI、IX型では、繰り返す低血糖、人形様の顔立ち、低身長、発育障害、発達障害、肝腫大(腹部膨満)などの症状、低血糖、肝機能障害などの検査の所見から、この病気が疑われます。酵素活性検査または遺伝学的検査で、原因となる酵素活性の低下、または原因遺伝子の変異が確認された場合に診断が確定となります。

IV型では、主要な症状は5つのタイプごとに異なります。肝組織にアミロペクチン様グリコーゲンの蓄積が認められる、酵素診断でグリコーゲン分枝鎖酵素活性の低下が認められる、遺伝学的検査でGBE1遺伝子に変異が確認される、のいずれかの場合に診断が確定となります。

どのような治療が行われるの?

肝型糖原病では、根本的に病気を治療する方法はまだ確立されておらず、症状を抑えるための食事療法などの対症療法が主な治療となります。

特にI型など、低血糖症状が重い場合、血糖値を維持するために、乳糖・ショ糖・果糖を制限するなどの食事療法、糖原病の治療のための特殊ミルク(昼間用、夜間用)、低血糖予防のためのコーンスターチの摂取などのほか、夜間頻回・持続補給などが必要となります。Ib型の好中球減少にはG-CSFというお薬や、高尿酸血症には尿酸降下薬などの薬物療法も行われます。症状によっては肝移植が行われることもあります。そのほか、病型の症状に合わせた治療が行われます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で肝型糖原病の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

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