筋力低下などのほか、心臓や脳などさまざまな全身症状が見られる疾患
山口大学を中心とした研究グループは、エリスロマイシンという薬剤が、筋強直性ジストロフィーのスプライシング異常を改善する可能性を見出し、臨床試験においてその安全性を確認するとともに、病態に直結するスプライシング異常を改善する有効性を示したことを報告しました。
筋強直性ジストロフィーは、筋ジストロフィーの病型の一つで、筋力低下などの骨格筋の症状だけでなく、不整脈や心不全などの心臓の症状、認知機能低下や性格の変化などの脳の症状、ほかにも糖尿病や白内障など、さまざまな全身症状が見られる遺伝性疾患です。この病気が進行することで、筋力低下によって寝たきり状態となり、嚥下・呼吸障害や致死性不整脈・心不全などを引き起こすこともありますが、有効な根本的治療薬はありません。
この病気の多様な全身症状の原因として、変異のある遺伝子から生成された異常なRNAがスプライシングと呼ばれる過程を破綻させ、さまざまな遺伝子のスプライシング異常が引き起こされることが明らかになっています。また、こうしたスプライシング異常は筋強直性ジストロフィーの重症度を示す指標となることもわかっています。
研究グループは、別の疾患の既存薬の中に効果があるものを探索する「ドラッグリポジショニング」と呼ばれる方法を用いて、抗生物質であるエリスロマイシンを、筋強直性ジストロフィー治療薬の候補化合物として見出し、筋強直性ジストロフィーのモデルマウスで有効性を示すことも実証していました。
エリスロマイシン投与で筋障害の指標やスプライシング異常が改善
今回、研究グループは筋強直性ジストロフィー患者さんに対して実際にエリスロマイシンによる治療を行い、その安全性と有効性を検証する第2相の医師主導治験を実施しました。この治験では筋強直性ジストロフィー患者さん30人に対し24週間にわたりプラセボもしくはエリスロマイシンを内服し、治療の安全性と有効性を検証しました。
主要評価項目である安全性は、エリスロマイシン投与群で消化器症状と関連する有害事象がやや多く見られたものの、重篤なものはなく、全例で軽快しました。このほか重篤な有害事象は見られませんでした。副次評価項目である有効性では、スプライシング異常がエリスロマイシン投与群で統計学的有意に改善していることが示されました。また、筋障害の指標となるクレアチンキナーゼ値も、エリスロマイシン投与群で低く抑えられる傾向が見られました。
これまで、筋強直性ジストロフィーではさまざまな治療薬の候補が開発されてきましたが、実際に患者さんでこの病気の本態であるスプライシング異常を統計学的有意に改善したものはエリスロマイシンが初めてとなりました。また安全性にも特に問題が見られませんでした。
研究グループは、今後の第3相治験でより多くの患者さんに対するエリスロマイシンの安全性と有効性が実証されれば、世界初の筋強直性ジストロフィー治療薬としての薬事承認につながることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)