常染色体顕性多発性嚢胞腎、「タミバロテン」の臨床試験で第2段階の被験者募集を開始

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. iPS細胞の技術を用い、常染色体顕性多発性嚢胞腎の治療薬としてRAR作動薬が同定された
  2. その中から白血病(APL)治療薬として既承認の「タミバロテン」を選択、12月より前期第2相臨床試験開始
  3. 第1段階の被験者で投与後8週間の安全性に問題がないことが確認され、第2段階の被験者募集開始

iPS細胞から作製したモデルを利用、治療薬候補を同定

京都大学発スタートアップ企業のリジェネフロ社は、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD)患者さんを対象に、同疾患の治療薬として京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究成果をもとに開発されたレチノイン酸受容体(RAR)作動薬である「タミバロテン」(治験薬コード:RN-014)の第2相臨床試験を昨年12月より開始し、4月より第2段階の被験者募集を開始したと発表しました。

ADPKDは、両側の腎臓に水が溜まった袋(嚢胞)が発生・増大して、徐々に腎臓の機能が低下する病気です。腎臓以外にも、肝臓や膵臓などに嚢胞が生じることもあります。また全身の血管にも異常が起こり、高血圧、脳動脈瘤、心臓の弁異常などが引き起こされることもあります。ADPKDには現在のところ根治的な治療法はなく、治療薬としては、嚢胞の増大を抑制するトルバプタンが唯一承認されていますが、腎臓の水再吸収を阻害することで水利尿作用を示すメカニズムのため1日に多量の飲水が必要でした。

研究グループは、ADPKDにおいて腎臓の中で主に嚢胞形成が発生する「集合管」と呼ばれる組織についてiPS細胞から人工的な臓器を作製し、多発性嚢胞腎の病態を模倣できるようなモデルを作製しました。作製したモデルを利用してRAR作動薬を同定することに成功、その治療効果を複数のADPKDマウスモデルで確認しました。

他の臨床試験において、低用量タミバロテン投与での重篤な副作用の報告無し

今回の臨床試験では、RAR作動薬の中から、再発・難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬として日本で既に承認されているタミバロテンが、ADPKD治療薬の候補として選択されました。タミバロテンは、APL以外にも非小細胞肺がん、ループス腎炎、クローン病などの多種多様な適応症の臨床試験が実施中もしくは完了しており、ヒトに対する投与経験が豊富です。

これまで報告された副作用としては、再発・難治性のAPL治療において、高用量のタミバロテンの短期間集中的投与で分化症候群などの重大な副作用が報告されています。一方で、アルツハイマー型認知症患者さん対象の臨床試験では、今回の臨床試験と同様にAPL治療よりも低用量のタミバロテン4mgを1日1回24週間経口投与し、死亡例やタミバロテンとの関連性が否定できない重篤な有害事象は報告されていませんでした。

これらのことから、追加の非臨床毒性試験や第1相臨床試験を新たに実施することなく、前期第2相臨床試験が開始されました。タミバロテンの有効性ならびに安全性が確認されれば、タミバロテンの作用メカニズムはトルバプタンとは異なり、多量の飲水が必要ないなど、ADPKD治療におけるQOL改善が期待されます。

同社は、第2段階の被験者募集は、第1段階の被験者における投与後8週間までの安全性に問題がないことが確認されたことによるものであり、2024年末までに被験者募集完了を目指している、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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