家族性ALSと遠位型ミオパチー治療薬開発の現在と今後への期待、第65回日本神経学会学術大会レポート

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ALSと遠位型ミオパチー、病態・治療薬開発情報など解説
  2. SOD1遺伝子変異を有するSOD1-ALS治療薬で申請中「トフェルセン」
  3. GNEミオパチー治療薬で3月承認の「アセノイラミン酸」

ALS全体の約5%は「家族性ALS」、原因遺伝子変異が判明しているものも

第65回日本神経学会学術大会が5月29日~6月1日に開催されました。その演題の一つであった、東北大学大学院医学系研究科医学系研究科神経内科学分野教授の青木正志先生のレクチャーマラソン「遺伝性神経筋疾患 overview」の内容をご紹介します。講演では、遺伝性神経筋疾患の中でも筋萎縮性側索硬化症(ALS)と遠位型ミオパチーについて、病態や治療薬開発情報などが取り上げられました。

ALSは、筋肉を動かして運動をつかさどる神経「運動ニューロン」が、選択的に変性・消失していく進行性の病気。運動ニューロンが障害を受けると、手足・のど・舌の筋肉や、呼吸に必要な筋肉が痩せていき、力がなくなっていきます。また、ALSは、厚生労働省の指定難病対象疾病の一つです。多くのALSで発病の原因は不明ですが、遺伝子変異との関連が考えられています。ALS全体の約5%は「家族性ALS」と呼ばれ、原因となる遺伝子変異が判明しているものもあります。なお、家族性ALS以外の多くは、孤発性ALSです。

日本神経学会は、2023年5月に「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」を刊行しました。ガイドラインでは、治療法としてリルゾールとエダラボンが解説されています。

臨床試験で神経細胞障害バイオマーカー減少、SOD1遺伝子変異有・発症前投与も検討中

家族性ALSの原因遺伝子としては、SOD1、TDP-43、FUS遺伝子などが報告されています。中でも、SOD 1遺伝子変異に伴う家族性ALSに対しては、トフェルセン(米国での製品名:QALSODY(R))が2023年4月25日に米国で迅速承認されました。その他、欧州では欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が2024年2月23日に、特例的な状況下での販売承認を推奨する肯定的見解を採択。現在、販売承認が検討されています。日本では、バイオジェン・ジャパン株式会社が2024年5月21日に承認申請しています。もし承認された場合、トフェルセンはSOD1遺伝子変異を有するSOD1-ALSに対し、遺伝的原因を標的とする日本で初めての治療薬となります。

トフェルセンは、SOD1タンパク質の生成を抑制するためにSOD1 mRNAに結合するように設計された核酸医薬です。臨床試験の結果、トフェルセン群で血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL:神経細胞の障害を反映して髄液中で上昇し、一部、血液中でも上昇が見られるバイオマーカー)の減少が確認されました。

なお、現在は第3相VALOR試験のオープンラベル延長試験、臨床第3相無作為化プラセボ対照ATLAS試験が進行中です。ATLAS試験では、SOD1遺伝子変異を持つALS発症前の方を対象に、トフェルセンの有効性等を検証しています。臨床的症状の発現を遅らせることができるかどうか、血漿NfL上昇のバイオマーカーとしてのエビデンスを評価しています。

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー、患者数1,000人未満の「ウルトラオーファン」

筋疾患の多くは、体幹に近い筋(近位筋)から障害されます。一方、遠位型ミオパチーでは、体幹から遠い筋(遠位筋)から障害されることが特徴です。例えば、足首を動かすような筋肉や指先を動かすような筋肉が障害されます。このように遠位筋から障害される遺伝性筋疾患を、総称して遠位型ミオパチーと呼びます。遠位型ミオパチーは、10以上の異なる疾患があることが知られており、指定難病対象疾病です。中でも、日本で患者数が多いとされているのは「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」と「三好型ミオパチー」でそれぞれ患者数400人程度、「眼咽頭遠位型ミオパチー」で患者数120人前後と推測されています。このように患者数1,000人未満の疾患への医薬品開発は、オーファンドラッグと比べてさらに困難なことから「ウルトラオーファン」と呼ばれています。

足りなくなったシアル酸を補う経口投与可能な薬剤アセノイラミン酸

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの一種GNEミオパチーは、GNE遺伝子の変異が見られます。GNE遺伝子は、糖の一種シアル酸を身体の中で合成するのに必要な酵素の設計図です。GNEミオパチー患者さんはこの酵素の機能が低下するため、シアル酸がつくられにくくなります。アセノイラミン酸(製品名:アセノベル(R)徐放錠500㎎)は、シアル酸の一種です。GNEミオパチーで足りなくなったシアル酸を補うため、経口投与可能な薬剤として開発されました。

48週時点の上肢筋力悪化を抑制、長期投与の安全性・有効性も確認

東北大学では、GNEミオパチーを対象にシアル酸の一種「アセノイラミン酸」の医師主導第1相試験を実施し、安全性を確認しました。さらに、日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業として実施した医師主導第2/3相試験、ノーベルファーマ株式会社が治験依頼者となる有効性確認試験を実施し、GNEミオパチーにおけるアセノイラミン酸の効果を明らかにしました。

医師主導第2/3相試験は、歩行可能なGNEミオパチー患者さん20人(うち6分間歩行試験の歩行距離200m以上が18人)にアセノイラミン酸1日6gを投与したプラセボ対照二重盲検試験です。アセノイラミン酸群では、プラセボ群と比較して48週時点の上肢筋力合計点数の低下(悪化)が抑制されました。続く有効性確認試験は、GNEミオパチー患者14人にアセノイラミン酸1日6gを投与したプラセボ対照二重盲検試験。アセノイラミン酸群では、プラセボ群と比較して48週時点の上肢筋力合計点数の低下(悪化)が抑制されました。これらの試験結果をもとにノーベルファーマ株式会社が薬事承認申請を行い、3月26日に製造販売承認を取得しています。なお、6月10日には、48週の二重盲検期を終えた患者さん19人に対して、72週間にわたって同剤を継続投与し、長期投与における安全性と有効性を確認したことを東北大学などの研究グループが発表しました。

開発困難なウルトラオーファン薬開発で成功、GNEミオパチー早期治療に期待

今回、ウルトラオーファンの疾患GNEミオパチーに対する治療開発として、世界初の成功例となりました。最後に青木先生は「患者さんをはじめ、多くの方々の協力があり、承認に至った」と触れ、「GNEミオパチー患者さんの早期治療につながることが期待される」と締めくくりました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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