NGLY1欠損症、「オキシトシン」経鼻投与でモデルマウスのけいれん抑制を確認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. NGLY1欠損症モデルマウスのけいれん様症状を解析
  2. マウスの視床などでオキシトシン発現低下を確認
  3. オキシトシンペプチドの経鼻投与によりマウスのけいれん様症状が一過性に抑制

筋力低下やてんかん発作などの重篤な症状が引き起こされる病気

理化学研究所を中心とした研究グループは、遺伝性希少疾患であるNGLY1欠損症のモデルマウスが示すけいれん様症状を、愛情ホルモンとしても知られるオキシトシンが一過性に抑制することを明らかにしたと報告しました。

NGLY1欠損症は、2012年に米国で初めて見つかった疾患で、現在までに世界で100人以上の患者さんが確認されています。NGLY1欠損症は、異常な糖タンパク質の分解に関与することで細胞の恒常性を維持する役割を持つ脱糖鎖酵素であるNGLY1の機能を失うことによって発症し、発育不全、四肢の筋力低下、不随意運動、てんかん発作などの重篤な症状が引き起こされることもあります。しかし、病態発現の詳細なメカニズムは解明されておらず、有効な治療法も見つかっていません。

研究グループは、これまでの研究でNGLY1欠損症モデルラットやモデルマウスを樹立してきました。さらに、樹立したモデルラットに対する遺伝子治療(AAV-NGLY1を脳室内に投与)で、運動機能が改善することを示してきました。

今回、この病気の症状の一つであるけいれん発作に着目し、NGLY1欠損症モデルマウスでけいれん様症状の有無を調べ、けいれん様症状が起こるメカニズムについての解析を行いました。

正常型マウスよりオキシトシン遺伝子発現が低下

このモデルマウスのけいれん症状を調べたところ、1日に30〜40回の頻度でけいれん様症状を示すことがわかりました。そこで、症状が引き起こされる原因を解明するため、このマウスの脳内や脊髄における遺伝子発現を網羅的に解析しました。その結果、NGLY1欠損症モデルマウスの脳内の視床において正常型マウスよりもオキシトシン遺伝子の発現が低下していることが明らかになりました。さらに、オキシトシン遺伝子の主な産生部位である視床下部においても、オキシトシン遺伝子とオキシトシンペプチドの両方が低下していることもわかりました。

オキシトシンを「鼻から投与」、遺伝子治療より侵襲性の低い治療として期待

研究グループは、NGLY1欠損モデルマウスに対してオキシトシンペプチドを鼻から投与し、脳内に送達させる手法を試みました。結果として、マウスの血中や脳内でのオキシトシン濃度の上昇が確認され、見られていたけいれん様症状が一過性に抑制されることが明らかになりました。

これらの結果から、NGLY1とオキシトシンの関連性、そしてNGLY1欠損症のけいれん症状に対するオキシトシンの効果が示唆されました。

研究グループは、「オキシトシンはすでに分娩促進への適用が承認されているため、NGLY1欠損症のけいれん抑制に適用拡大されれば、AAV-NGLY1を用いた遺伝子治療よりも侵襲性の低い治療法開発につながることが期待される」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク