どのような病気?
NGLY1欠損症はN-glycanase 1(エヌ・グリカナーゼ・ワン)という酵素の欠損によって、複合的な神経学的症状を生じる遺伝性疾患です。NGLY1欠損症では幼児期からの言語や運動機能の発達遅延、筋緊張低下、てんかん発作、肝機能障害、視覚障害などの障害が見られます。
NGLY1欠損症で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 脳萎縮、感覚運動神経障害(感覚神経と運動神経が障害される神経障害)、運動過剰症(体全体の筋肉が過剰に動く不随意運動) |
良く見られる症状 髄鞘化異常(神経の伝達速度を向上させる髄鞘の形成異常)、言語能力の完全欠如、小脳萎縮、便秘、脳脊髄液中の5ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)の濃度低下(5-HIAAは神経伝達物質の代謝産物)、脳脊髄液中のアルブミン濃度低下、脳脊髄液中のホモバニリン酸濃度低下(ホモバニリン酸は神経伝達物質の代謝産物)、脳脊髄液中のタンパク質減少、涙液分泌減少、発達遅滞、発育不良、全般ミオクローヌス発作(意思によらず全身の筋肉が収縮する発作)、全般非運動発作(意識消失や無反応状態となる発作)、全般的発達遅滞、歩行障害、易骨折性(骨折し易いこと)、知的障害、閉塞性睡眠時無呼吸(気道の閉塞による睡眠時無呼吸)、言語障害、胎児発育不良(妊娠週数に対して胎児が小さい状態) |
しばしば見られる症状 アキレス腱拘縮、四肢発育異常(手や足、前腕や下腿の短縮)、動作時の振戦(震え)、起立不能、アテトーゼ(安定した姿勢が維持できないような、ゆっくりとねじれるように動く不随意運動)、脱力発作、軸索損失(神経細胞同士をつなぐ軸索の損失や破壊による減少)、舞踏病(手足が不規則な動きをする不随意運動)、先天性股関節脱臼、角膜瘢痕、股関節形態異常、座ることができる時期(月齢)が遅れる、髄鞘化遅延、骨格成熟遅延、ジストニア(意思によらない不随意な筋収縮)、顔面筋弛緩、発話に関する筋力低下、笑い発作(笑いや喜びなどの感情的な刺激によって引き起こされるてんかん発作の一種)、局所性強直発作(局所的に筋肉が硬直する発作)、神経膠症(神経組織における神経細胞以外の細胞の増加)、肝腫大、股関節形成不全、低フィブリノーゲン血症(血液凝固に関わるフィブリノーゲンというタンパク質の減少)、反射低下、口腔内食塊形成障害(食物を飲み込みやすい状態にする機能の障害)、嚥下障害(食物や水を飲みこむ機能の障害)、点頭てんかん(乳児に発症するてんかんの1種)、関節過伸展(関節の可動域が正常範囲を超えること)、四肢関節拘縮、舌ジストニア(舌の筋肉が不随意にけいれんしたり収縮する状態)、微小結節性肝硬変(肝臓に微小な結節が生じる肝硬変)、小滴性脂肪肝(小さな脂肪の塊が集積するタイプの脂肪肝)、ミオクローヌス(意思によらない不随意の筋肉の収縮やけいれん)、肝結節性再生性過形成(肝細胞の過剰な再生によって肝臓に多数の結節が形成される肝疾患)、眼球運動失行(異常な眼球運動)、プロトロンビン時間延長(血液凝固の指標であるプロトロンビン時間が延長すること、出血が止まりにくいことを示す)、反復する呼吸器感染症、骨密度低下、第IX因子活性低下(血液凝固に関わる第9因子の活性低下、出血が止まりにくいことを示す)、プロテインC活性低下(体内で血液を固まりにくくするタンパク質であるプロテインCの活性が低下し、血栓が生じやすい状態となる)、指節の硬化(指の関節の硬化)、側弯症(脊柱の湾曲)、二次性小頭症(出生時は正常な頭囲で成長とともに頭の成長が遅延することによる小頭症)、肩関節脱臼、膵肥大、注視、吸引反射(乳児の口に指などを触れると吸引する反射)、足の骨の骨密度増加、脳室拡大 |
まれに見られる症状 両側眼瞼下垂(両目のまぶたが垂れ下がった状態)、視細胞の変性、角膜血管新生、外斜視、兎眼(瞼が完全に閉じることができない状態)、視神経萎縮、視神経乳頭蒼白(眼底検査で視神経乳頭が萎縮して変色している状態)、色素性網膜症(眼の網膜に色素沈着を伴う網膜症)、頭部の姿勢維持困難 |
NGLY1欠損症の発症頻度は不明ですが、これまでに世界で少なくとも46例が報告されています。
NGLY1欠損症は、糖タンパク質の異常による先天性疾患の総称である小児慢性特定疾病「先天性グリコシル化異常症」の対象となる場合があります。
何の遺伝子が原因となるの?
NGLY1欠損症の原因はNGLY1遺伝子の変異です。生体内では細胞内にある異常なタンパク質は分解されますが、この際にはタンパク質に結合している糖鎖(糖が鎖状につながったもの)を取り除く必要があり、これを脱糖化と言います。NGLY1遺伝子が設計図となって産生されるN-glycanase 1というタンパク質は、異常なタンパク質を脱糖鎖して、その分解を可能とします。NGLY1遺伝子の変異によってN-glycanase 1の欠損や機能低下が生じ、細胞内の異常のタンパク質の分解が障害される結果、細胞内の異常なタンパク質が集積することで脳、肝臓、眼などのさまざまな部位にNGLY1欠損症の症状が生じると考えられています。
NGLY1欠損症は常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。両親がともにNGLY1遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率でNGLY1欠損症発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。
どのように診断されるの?
現在、日本にはNGLY1欠損症の確立された診断基準はありません。米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」では、NGLY1欠損症について以下の診断方法を示しています。
1.NGLY1欠損症が示唆される所見
<臨床所見>
・発達遅滞/知的障害(多くの場合重度)
・筋収縮亢進性運動障害
・無涙症または涙液低下症
<補助的な検査所見>
・小児期早期における肝機能検査におけるALTおよびASTの上昇、その後は自然に正常化
2.確定診断
遺伝子診断によってNGLY1の1対2個の遺伝子の両方に変異が確認された場合、NGLY1欠損症の診断が確定します。
どのような治療が行われるの?
NGLY1欠損症は国内では確立された治療方針は作成されていません。GeneReviewsでは以下のような治療を提示しています。
・発達遅滞、知的障害に対しては、作業療法、理学療法、言語療法、食事療法が可能な施設に早期に紹介する。
・運動機能障害に対して理学療法を実施、必要な場合には車椅子やバスチェアーなどを考慮
・筋緊張異常に対しては専門家による支援のほか、バクロフェン(抗痙縮薬)、ボトックス、抗パーキンソン薬の使用
・口腔機能障害に対しては食事療法を考慮
・無涙症に対しては点眼薬や軟膏
・摂食障害に対して、必要な場合には栄養チューブを設置
・低水分症に対して、適切な水分摂取および体温上昇の抑制
・ビタミンD欠乏症に対してビタミンDの摂取
・必要な場合には外科的治療
・聴覚障害・睡眠障害・便秘・側弯症・骨粗しょう症・てんかん発作に対してはそれぞれに対する標準的治療を実施
<研究中の治療>
まだ、動物実験の段階ですが、日本でも治療法開発に向けた研究が進められています。理化学研究所および武田薬品工業の共同研究チームはNGLY1遺伝子を欠損させたラットの脳にヒトのNGLY1遺伝子を導入することで運動機能が改善することを報告しており、今後のNGLY1欠損症の治療法の開発が期待されています。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でNGLY1欠損症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- GeneReviews
- 大阪母子医療センター CDG診断支援プロジェクト「CDG 診断サポートと CDG 解説」
- 遺伝性疾患プラス 「NGLY1欠損症、有効な遺伝子治療法が開発できる可能性」