フェニルケトン尿症・専門医×成人の当事者が語る、治療と生活

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. オンライン配信「知ってほしい指定難病『フェニルケトン尿症』これまでとこれから」レポート
  2. 「思春期~成人期のPKU治療と管理」専門医が解説
  3. 思春期の「食事」「学校生活」を振り返り、当事者が今思うこと

「フェニルケトン尿症の治療継続の意義と最新治療」新宅先生

ヨミドクターオンラインサロンは8月24日(土)~8月30日(金)の期間限定で「知ってほしい指定難病『フェニルケトン尿症』これまでとこれから」をオンライン配信しました。主催は読売新聞社、後援はBioMarin Pharmaceutical Japan株式会社です。

第一部では、大阪公立大学大学院医学研究科地域周産期新生児医療人材育成寄附講座特任教授の新宅治夫先生が「フェニルケトン尿症の治療継続の意義と最新治療」と題して講演しました。

フェニルケトン尿症(以下、PKU)は、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)遺伝子に変異が生じることで、血液中にフェニルアラニンが蓄積する遺伝性疾患。先天代謝異常症と呼ばれる疾患の一つでもあります。体内にフェニルアラニンが有害なレベルまで蓄積し、チロシンが少なくなることで、色素が正常に作られなくなるなど、いろいろな症状が現れます。

重症度はさまざまで、診断時の血漿中フェニルアラニン値の高い方から「古典的PKU(20mg/dL以上)」「軽症PKU(10mg/dL以上20mg/dL未満)」「軽症高HPA(10mg/dL未満)」に分類されます。酵素(PAH)の働きは、補酵素「テトラヒドロビオプテリン(BH4)」に助けられています。また、PAHに異常があっても、BH4に反応して血中のフェニルアラニン値が低下する病型があり、「BH4反応性PKU」と言います。

PKUは新生児マススクリーニング検査の対象疾患の一つです。検査でPKUと診断された場合でも、低フェニルアラニン食事療法を継続し、血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで、発症を予防することができます。フェニルアラニンは、タンパク質の構成要素であるアミノ酸の一種。さまざまなタンパク質と、いくつかの人工甘味料に含まれています。そのため食事療法では、タンパク質を制限することでフェニルアラニンの摂取を抑え、不足する他のアミノ酸を治療粉乳等で補います。

新宅先生は、講演内で思春期から成人期のPKUの治療と管理について解説しました。思春期から成人期にかけて、中には、食事療法の厳しい食事制限を守れなくなる方もいらっしゃいます。そのまま、治療を中断してしまう場合も。そのようなことにならないために、「思春期の前から治療の必要性を十分に説明し、生涯治療を続けられるように栄養士と共に栄養指導を実施することが大切です」と新宅先生。特に、小学生頃からは治療についても理解しやすくなるとのことで、思春期に入る前から「なぜ食事療法が必要か」について、当事者ご自身に理解してもらうことが大切だと述べました。

また新宅先生は、近年、PKUの新薬が登場していることにも触れました。BH4反応性がある場合にはBH4の内服、ない場合にはPKUの治療に用いる注射薬による治療を受けることができます。食事療法に薬物治療を併用することで、血液中のフェニルアラニンをコントロールすることが可能であることも触れ、講演を締めくくりました。

「治療を再開したい」成人の当事者、診療科はどうする?

それでは、小児科に通っていたPKUの当事者が成人し、「治療を再開したい」と思った場合、どのような診療科を受診するのが良いのでしょうか?

まずは、「子どもの頃に通っていた小児科の主治医の先生に相談しましょう」と、新宅先生。先生がすでに異動されていたり、辞めていたりした場合でも、かかりつけの小児科に問い合わせることが大切なのだそうです。事情を説明し、お住まいの地域の先生を紹介してもらいましょう。中には、「代謝内科」「内分泌代謝科」といった名前の診療科もありますが、糖尿病などの患者さん向けの診療科であることが多いので注意が必要です。PKUをはじめとした先天代謝異常症を診る先生を受診するためにも、小児科の主治医の先生へ連絡しましょう。

「フェニルケトン尿症とともに生きる」古典的PKU当事者の経験

第二部では、「フェニルケトン尿症とともに生きる」と題したトークセッションが行われました。トークセッションでは、新宅先生とPKU当事者の増井さん(新宅先生が診ている患者さん)が登場しました。増井さんは現在27歳。重症に区分される古典的PKUの当事者であり、幼少の頃から厳しい食事制限での食事療法を続けてきたそうです。

思春期「食事との向き合い方」「症状に対する周りの反応」

増井さんはまず、新宅先生が講演で触れていた、思春期から成人期にかけての食事療法について、学校生活を振り返りました。小学生時代は給食に対応するため、治療用ミルク(タンパク質を補うためのフェニルアラニン除去ミルク)と低タンパク質のお米を持参していたそうです。中学生からお弁当に変わり、野菜中心で、肉、魚、卵、小麦などを少なめにし、タンパク質を控えるように心がけていました。

思春期に入ると、少しずつ、食事の環境が変わっていきました。例えば、友だちの家に遊びに行ってポテトチップスなどのお菓子がたくさん出てきた時、友だちとの外食時に周りがハンバーガーを食べている時、など、さまざまな場面があります。その中で「食事制限って、難しいな…」と感じることもあったという増井さん。新宅先生は、改めて食事制限の難しさについて触れ、「当事者ご自身でどれだけ自己管理できるかに尽きます。小さい頃(思春期に入る前)から、食事がいかに大切かを知っていただくことが大切です」と、コメントしました。

また、増井さんは、PKUに関する症状についても触れました。古典的PKUの当事者である増井さんは、高校生の頃、髪の毛が茶色だったそうです。増井さんの場合は、周りに理解してくれる友だちがいたので大丈夫だったとのこと。しかし、外見に現れる症状であることから、PKUを知らない人からは心無い言葉をかけられることもあったと言います。「周りの目を気にされる方もいるのではないか」とコメントしました。

※フェニルアラニン値が高くなりチロシンが少なくなると、色素が正常に作れなくなり、髪の毛などの色が薄くなります。

病気への理解は難しい一方で、PKUを明るく捉えてもらえたら

日々の食事制限に加え、さまざまなの症状と向き合ってこられた増井さん。最後に、PKUについて思っていることとして、「フェニルケトン尿症は、暗い病気でも何でもないです」と述べました。希少疾患でもあることから、周りの方から「フェニルケトン尿症って何?」と言われることが多い、と増井さん。病気を理解してもらうことは、なかなか難しいだろうと感じているそうです。一方で、「(フェニルケトン尿症という)名前が言いづらすぎて、相手が笑ってくれる」こともあるそうで、こんな風に「明るく捉えてもらえたらいいですね」と述べました。

「(ご自身が)フェニルケトン尿症だと言うことで、周りに存分に甘えてきています。たくさんの方々に支えてもらってきています」と、増井さんは言います。もし、病気のことを周りに伝えるか迷っている方がいらっしゃったら、「僕は、公表してもいいのかなと思います」とコメントしました。今回の配信を通じて、「PKUの認知度向上につながり、同じ当事者の皆さんの一助となれたらうれしいです」とし、お話を締めくくりました。


遺伝性疾患プラスを運営する株式会社QLifeでは、「PKUオンラインコミュニティ」を運営しています。同コミュニティは匿名・無料で気軽に参加でき、入退室も自由です。他のPKUの当事者やご家族がしている食事の工夫や周囲への伝え方など、生活に関わることを話したい時、当事者やご家族つながる選択肢の一つとして、ぜひ思い出してみてください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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