デュシェンヌ型筋ジストロフィー、症状を再現するマイクロミニ・ブタモデルの開発に成功

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. DMD研究のため、症状を正確に再現でき飼育しやすい動物モデルが求められていた
  2. 世界最小のマイクロミニ・ブタに着目、ゲノム編集でDMDモデルを作製
  3. 骨格筋の萎縮や筋力低下などのDMD症状を非常によく再現し、実験施設で飼育可能

ネズミやイヌの疾患モデルはヒトとの違いが大きく、比較的近いブタは体が大きすぎる

国立精神・神経医療研究センターを中心とした研究グループは、ゲノム編集技術により、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の骨格筋や心筋の症状を再現する動物モデルとして、世界最小のマイクロミニ・ブタモデルを創出したと発表しました。

DMDは、筋肉の細胞の骨組みを作るジストロフィンタンパク質の設計図となるジストロフィン遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患で、約4,000人に1人の割合で見られ、主に男性で発症します。ジストロフィン遺伝子の変異により、正常なタンパク質が作れなくなることで、筋肉が壊れやすくなり、筋力が次第に弱っていきます。多くの場合、5歳頃に筋力の低下が始まり、次第に歩行が困難となり、30代後半に心臓や呼吸の問題が生じます。現在、ステロイド剤により進行を遅らせる治療が行なわれていますが、それ以外の有力な治療法は存在しないため新たな治療法の開発が必要とされています。

この病気の治療法開発のため、これまでに、マウス、ラット、イヌなどのモデル動物を用いた研究が行われてきました。その一方、これらの動物はヒトとの違いが大きく、ヒトの病気をより正確に再現できる動物モデルが求められていました。

ヒトの病気の再現に有望な動物モデルとして、臓器の配置や構造、免疫の仕組みなどがヒトと似ているブタがいます。しかし、ブタはヒトよりかなり大きく、ミニブタと呼ばれる小さなブタでも約100kgにもなるため、特別な飼育施設を必要とします。さらに、ミニブタの筋ジストロフィーモデルは、出生後すぐ、もしくは3か月以内に死亡することがわかっていました。

研究グループは、世界で最も小さい実験用ブタであるマイクロミニ・ブタ(マイクロミニピッグ)に注目し、筋ジストロフィーモデルブタの作製を試みました。マイクロミニ・ブタは2年齢の成獣でも25kg程度で、ミニブタの半分以下の大きさで免疫学的反応の解析も行うことができます。

従来のミニブタモデルよりも寿命長く、骨格筋と心筋の状態を適切に再現

研究では、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を用い、ジストロフィン遺伝子のエクソン23に11塩基の欠失があるマイクロミニ・ブタを作製しました。その結果、作製したマイクロミニ・ブタの骨格筋と心筋の細胞膜から最も大きなジストロフィン分子のDp427タンパク質が消失し、短いジストロフィン分子のDp71タンパク質は残っていることが確認され、ヒトのDMDと同様のパターンを示しました。

また、このマイクロミニ・ブタモデルは、骨格筋の萎縮、筋力低下、心筋症、血中クレアチニン値の高値、運動機能低下などのDMD患者さんの症状を非常に良く再現していることも確認されました。

このマイクロミニ・ブタモデルは、ブタでありながら非常に小さいため、実験動物の施設で飼育しやすく、そして従来のミニブタモデルよりも寿命が長く、骨格筋と心筋の状態が適切に再現されるため病気のメカニズム理解に有用であると考えられました。

研究グループは、この新しいDMDのマイクロミニ・ブタモデルの有用性を明らかにするため、自然歴や病態の研究を進めており、DMDの治療法開発を加速させることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク