ウェルナー症候群の動脈硬化発症メカニズムを解明、治療薬開発に期待

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ウェルナー症候群のモデル動物WRN遺伝子欠損マウスでは動脈硬化を再現できていなかった
  2. ウェルナー症候群患者さん由来のiPS細胞から、動脈硬化を再現する細胞系を確立
  3. マクロファージが動脈硬化促進の主要な原因細胞と判明

動脈硬化などの老化関連疾患が40代頃から見られる

千葉大学を中心とした研究グループは、ヒトiPS細胞を用いて、試験管内で動脈硬化を模倣するモデルを確立し、ウェルナー症候群患者さんに引き起こされる動脈硬化について、その原因となる血管炎症を誘導するメカニズムを明らかにしたと報告しました。

ウェルナー症候群は、早期の老化や、さまざまな老化関連疾患などが引き起こされる遺伝性疾患で、思春期を過ぎた頃から老化現象が加速し、通常は40~50代に老化関連疾患が見られます。また、早期の動脈硬化関連死が多いことも特徴の一つとなっています。

ウェルナー症候群の原因として、WRN遺伝子の変異により細胞の老化が加速されることがわかっていますが、これまでの研究では、WRN遺伝子をノックアウトしたマウスにおいてウェルナー症候群の患者さんと同様の顕著な動脈硬化が見られず、この病気における分子レベルでの動脈硬化発症メカニズムは不明でした。

研究グループは、マクロファージ(体内の異物などを処理する免疫細胞の一種で、炎症性サイトカイン分泌などを介して動脈硬化発症に関与)、血管内皮細胞(血管の中を覆う細胞で、血管壁と血液の間を隔てる)、血管平滑筋細胞(血管の外側に存在する血管壁の筋肉細胞で、収縮や緩和により血液流量などを制御する)といった、動脈硬化において重要な細胞を健康な人とウェルナー症候群患者さん由来のiPS細胞から分化させる方法を開発し、詳細な解析を行いました。

患者さん由来のマクロファージとの共培養で血管の細胞に炎症性変化を確認

研究グループが、健康な人あるいはウェルナー症候群患者さん由来iPS細胞から分化させたマクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞について解析を行ったところ、ウェルナー症候群患者さん由来の血管内皮細胞や血管平滑筋細胞は、それぞれ単独では明らかな異常は認められませんでした。その一方で、患者さん由来のマクロファージでは、細胞増殖能の低下や老化マーカーの上昇、炎症性サイトカイン産生の亢進など、顕著な炎症性の変化が見られました。

そこで、これらの細胞の共培養(2種類以上の細胞を一つの環境で一緒に培養すること)を行い、動脈硬化の早期の変化である血管細胞の炎症性変化が再現されるかどうか検証を行いました。ウェルナー症候群患者さん由来のマクロファージと血管内皮細胞を共培養したところ、細胞接着因子の上昇や、炎症性サイトカインの遺伝子発現上昇など、動脈硬化の際に観察される血管内皮細胞の炎症性変化が観察されることがわかりました。マクロファージと血管平滑筋細胞の共培養でも、成熟した血管平滑筋細胞のマーカーとなるタンパク質や遺伝子発現の低下が見られました。これらのことから、特にマクロファージが、ウェルナー症候群における動脈硬化促進の主要な原因細胞であることが示唆されました。

さらに、ウェルナー症候群患者さん由来マクロファージの異常な炎症活性化の原因を明らかにするため、遺伝子の発現やエピゲノム解析を行い、炎症を引き起こす詳細な分子メカニズムが明らかになりました。

研究グループは、この研究で明らかにされた、ウェルナー症候群の動脈硬化の早期発症メカニズムから、病態の進行を遅らせるような治療薬の開発につながることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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