異常なタンパク質「アミロイド」蓄積で全身臓器障害の遺伝性疾患
信州大学の研究グループは、トランスサイレチン型遺伝性アミロイドーシス(ATTRvアミロイドーシス)に対する遺伝医療の現状を調査した結果を発表しました。
ATTRvアミロイドーシスは体内の臓器や組織に異常なタンパク質「アミロイド」が蓄積することで、末梢神経、心臓、腎臓など全身の臓器障害を引き起こす遺伝性疾患です。原因遺伝子として、TTR遺伝子の変化が特定されています。TTR遺伝子は、タンパク質トランスサイレチンの設計図となる遺伝子です。TTR遺伝子に変化があると、異常なトランスサイレチンが作られます。その結果、アミロイドの蓄積につながっていきます。ATTRvアミロイドーシスは常染色体顕性遺伝という遺伝形式です。そのため、患者さんと同じ病気を持っている可能性があるものの、現時点で発症していない血縁者(at risks者)がいる場合があります。
近年、疾患の進行を抑制する新しい治療薬(TTR4量体安定化剤、核酸医薬品など)が登場し、日本でも保険適用されています。ATTRvアミロイドーシスの新しい治療薬は、臓器障害に至る前に投与を開始することで、その効果が得られやすいことがわかっています。こうした観点から、ATTRvアミロイドーシスのat risk者も、発症早期に治療を開始することが大切だと考えられています。
ATTRvアミロイドーシスat risk者への遺伝医療を調査
ご自身の遺伝情報を知り健康管理にどのように役立てるか、そのプロセスを支援するための医療行為を遺伝医療と言います。ATTRvアミロイドーシスのat risk者に対する遺伝医療について調査した研究は、これまでほとんどありませんでした。
今回の研究では、同大病院をATTRvアミロイドーシスに関連した遺伝カウンセリングを目的に受診した202人を対象に調査しました。発症前遺伝子診断を実際に行ったのは、83人で、33人で発症に関連する遺伝子の変化を認めました。33人中31人に対して、引き続き同大病院で健康管理のためのモニタリングを実施。31人中11人でアミロイドの沈着が確認され、症状がないまたは軽微な段階で、進行を抑制する治療法が導入されていました。
血清中トランスサイレチン、発症確認前から連続的に減少
日本で最も多いとされる遺伝子の変化V30M(p.V50M)を保有していた方の場合、アミロイド沈着が最初に確認された年齢は32.0±2.4歳(中央値±標準誤差)と推計されました。また、血清中のトランスサイレチンを測定すると、発症を確認する以前から連続的に減少していることが新たに示されました。
今回、ATTRvアミロイドーシスのat risk者への遺伝カウンセリングと発症前遺伝子診断で、発症早期の治療導入を目指す臨床遺伝学的アプローチを実施することで、有効な治療を適切な時期に開始することが可能であったことが明らかになりました。同研究で示された臨床遺伝学的アプローチが、将来、他の遺伝性疾患のat risk 者の健康管理にも寄与すると期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)