トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Transthyretin-related familial amyloid polyneuropathy
別名 遺伝性ATTRアミロイドーシス、家族性トランスサイレチンアミロイドーシス、TTR-FAPなど
世界の患者数 5万人程度
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体優性(顕性)遺伝)
発症年齢 20~80歳(日本の集積地では20~40歳代が多い)
性別 男女とも
主な症状 末梢神経障害(足のしびれなど)、自律神経障害(下痢など)、目の症状、など
原因遺伝子 TTR遺伝子
治療 肝移植、核酸医薬品による治療、TTR4量体安定化剤による治療、対症療法
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どのような病気?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)は、体内の臓器や組織に「アミロイド」と呼ばれる異常なタンパク質凝集体が沈着することで発症する遺伝性疾患です。

アミロイドの沈着が最も多く起こるのは、「末梢神経系」という、触覚、痛み、熱、音の感覚などを司る神経です。また、血圧、心拍数、消化など、不随意の身体機能を制御する「自律神経系」でも、アミロイド沈着が起こります。多くはありませんが、「中枢神経系」(脳と脊髄)でも、アミロイド沈着が認められた例はあります。アミロイド沈着は、病気が進行すると、神経以外にも、心臓、腎臓、目、消化管でも起こり、沈着した臓器を障害します。

TTR-FAPの症状はさまざまで、ゆっくりと進行していきます。どういった症状が出るかは、最もアミロイド沈着の影響を受けた体の部位によって異なりますが、主に現れるのは「末梢神経障害」「自律神経障害」「全身症状」で、以下のようなものがあります。

末梢神経障害

足の脱力感・しびれ・痛み、手のしびれ(手根管症候群)、筋力低下、筋委縮、瞳孔の異常、皮膚温の低下、手足の冷感、声のかすれ、など

自律神経障害

排尿障害、消化器症状(下痢と便秘を繰り返す、吐気、嘔吐など)、起立性低血圧(めまい、失神)、発汗の低下、性的インポテンス(勃起不全)、など

全身症状

貧血、体重減少、不整脈、むくみ、褥瘡(じょくそう)、など

その他、目の症状として、硝子体混濁による視力低下なども多く認められます。

TTR-FAPの発症年齢は国によって異なり、ポルトガル、スウェーデン、日本の集積地(熊本県、長野県、石川県)では一般的に20歳代~40歳代での発症が多くみられます。集積地以外の日本を含む、その他の地域や国では、それより高齢で発症するケースが多くみられます。TTR-FAP患者さんの予後や平均寿命は、遺伝子変異のタイプ、アミロイド沈着の影響を受ける臓器、および診断と治療開始のタイミングなどによって異なります。若い年齢で発症し、診断後数年で亡くなる方もいれば、高齢の患者さんで、長生きされる方もいます。肝移植を行わなかった場合、最初に診断がついてからの平均余命は7~12年とされています。

TTR-FAPは、「全身性アミロイドーシス」(指定難病28)に含まれる形で、医療費助成の対象疾病となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

TTR-FAPは、「TTR遺伝子」の変異によって引き起こされます。この遺伝子は、トランスサイレチンと呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子です。トランスサイレチンは、主に肝臓で作られ、脳脊髄液や血液に乗って、甲状腺ホルモンである「サイロキシン」や、ビタミンAである「レチノール」を、体の必要な部分に運搬する役割を担っています。サイロキシンやレチノールを運搬するには、4つのトランスサイレチンタンパク質が互いに結合して「4量体」を形成している必要があります。TTR遺伝子に変異があると、4量体の状態を保ちづらい異常なトランスサイレチンが作られ、その結果、異常なトランスサイレチンはバラバラ(単量体)で存在するようになります。単量体の異常なトランスサイレチンは、異常な形で凝集して「アミロイド」を形成し、これが体のあちこちに蓄積して、神経や組織を障害していきます。

TTR遺伝子は、18番染色体の長腕(18q12.1)という位置に存在し、TTR-FAPを引き起こすTTR遺伝子の変異は、これまでに100以上見つかっています。これらの変異は、ほとんど全てが、トランスサイレチンを構成するアミノ酸のうちの1つだけを置換する変異です。TTR-FAPの患者さんに最も一般的にみられる変異は、30番目のアミノ酸をバリンからメチオニンに置換する変異(Val30MetまたはV30Mと表記されます)です。この変異は、ポルトガル、スウェーデン、そして日本の集積地で最も一般的に見られますが、世界中で見られています。その他、122番目のアミノ酸をバリンからイソロイシンに置換する変異(Val122Ile、V122I)は、アフリカ系米国人と、西アフリカの一部の地域で一般的にみられ、ほとんどは、高齢になって発症するタイプだということがわかっています。

TTR-FAPは常染色体優性(顕性)という遺伝形式で親から子へ遺伝します。これは、両親のどちらかが2つセットでもつTTR遺伝子のうちの1つに変異がありTTR-FAPを発症していた場合、変異したTTR遺伝子を子どもが受け継ぐ確率は50%ということを意味します。変異遺伝子を受け継いだ子どものほとんどがTTR-FAPを発症しますが、全ての人がTTR-FAPを発症するとは限りません。理由は不明ですが、実際に遺伝子変異が確認されても生涯発症しなかった例が認められています。また、親から受け継いだのではなく(家族歴がなく)、子どもで新たに変異が発生し、発症した例もあります(de novo変異といいます)。

Autosomal Dominant Inheritance

TTR-FAPの正確な発生率は不明ですが、世界に5万人ほど患者さんがおり、ポルトガル、スウェーデン、および日本の一部の地域に集積している傾向があります。地域集積性は、遺伝性であることと深く関連しています。Val30Metは、ポルトガルの一部の地域では約583人に1人、米国では約10万人に1人の割合で発生しており、Val122Ileは、アフリカ系米国人の3%程度と、西アフリカの一部の地域人口の5%が有していると推定されています。TTR-FAPは地域集積性が見られるものの、すべての民族グループで発見されており、男性でも女性でも等しく発生しています。

どのように診断されるの?

TTR-FAPは、発症年齢も幅広い上、症状が多様で特有の決定的な症状がないため、診断がとても難しい病気です。

診断は、徴候や症状から疑われ、組織生検や遺伝子検査で確認されるという流れになります。日本神経学会が作成した家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドラインに、医師が参照するための診断基準が載っています。診断基準には、主要事項と参考事項が示されており、主要事項は以下のようになっています。

  1. 臓器障害:感覚障害、運動障害、自律障害、心障害
  2. ゆっくりと発病し、徐々に進行していく
  3. 常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝している
  4. 末梢神経、胃、直腸、皮膚、口腔粘膜、腹壁脂肪などの生検でアミロイド沈着が認められる

 

1.のうち2つ以上と、遺伝子検査でTTR遺伝子の変異が認められた場合、TTR-FAPと診断されます。また、家系内にTTR-FAP患者さんがおり、1.のうち1つ以上が認められる場合には、TTR-FAPの疑いとなります。

どのような治療が行われるの?

TTR-FAPは、アミロイド沈着による損傷をもとに戻す治療法はまだありませんが、進行を防ぐ、または遅らせるために有効な治療法があります。

肝移植

異常なトランスサイレチンを作っている肝臓そのものを、正常な肝臓と置き換える治療法です。1990年にスウェーデンで開始され、徐々に効果が認められ、現在も、診療ガイドラインで推奨される治療法となっています。一方、肝移植で効果が得られるのは、50歳未満の若年発症、発症から3~5年未満、心臓の症状が軽い人で、高齢者の治療法としては難しいということがわかっています。また、肝移植後も症候が進行する患者さんも一部います。さらに、肝移植にはドナーが必要なので、誰でも受けられる治療とは言えないなどの課題もあります。

核酸医薬品(siRNA製剤)による治療

新たな治療選択肢として、日本では2019年に「パチシラン」(製品名:オンパットロ)が、次いで2022年に「ブトリシラン」(製品名:アムヴトラ)が販売開始されました。これらの薬はいずれも、注射(パチシランは点滴静注、ブトリシランは皮下注射)をすると肝臓に到達し、変異トランスサイレチンが作られる過程で重要な「メッセンジャーRNA」という物質を「RNAi」という仕組みで分解します。これにより、変異トランスサイレチンからアミロイドが形成されるのを防ぐ狙いの治療法です。

TTR4量体安定化剤による治療

前述の通り、トランスサイレチンは、4つ集まった「4量体」として機能しますが、TTR遺伝子変異で生じた異常なトランスサイレチンは、4量体の状態が保てずバラバラになってしまい、これがアミロイド沈着につながります。そこで、TTRを4量体として保てるように安定化させる薬が開発され、日本では2013年から「タファミジス」(製品名:ビンダケル)として販売されています。1日1回の飲み薬です。

対症療法

さまざまな症状に応じて、薬や医療器具を用いて、症状を和らげる治療も行います。例えば、手足のしびれや痛みには痛み止めの薬、不整脈にはペースメーカーの装着、下痢や便秘には下痢止めの薬や便秘薬、むくみには利尿薬などを使います。目の手術や、心臓や腎臓の移植をする場合もあります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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