15番染色体の特定領域のコピー数が増え、自閉症などの神経症状が見られる
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、15番染色体重複(Dup15q)症候群の患者さん由来iPS細胞において余剰染色体を取り除いた細胞株の樹立に成功したと報告しました。
Dup15q症候群は、15番染色体の特定領域(長腕15q11.2-13.1)のコピー数が増えることによって、自閉症、てんかん、運動発達遅延、知的障害などの神経症状が見られる疾患です。15番染色体で重複が起こる領域には約30個の遺伝子が存在し、Dup15q症候群の病態と直接関係のある遺伝子や細胞の種類などの詳細な分子メカニズムはほとんどわかっていませんでした。Dup15q症候群患者さんの重複領域コピー数と疾患の重症度にははっきりとした関連が見られず、この疾患では重複した染色体の領域だけでなく、他の遺伝的な背景が関与する可能性が示唆されていました。
研究グループは、Dup15q症候群の病態研究を進めるためには遺伝子の重複によってのみ現れる変化を確認できる実験系が必要だと考えました。そこで、CRISPR-Cas9と呼ばれるゲノム編集技術を用いて、Dup15q症候群の患者さん由来iPS細胞から、余剰染色体を除去し、余剰染色体のある・ない以外は全く遺伝的背景が同じ細胞を作製することを試みました。
グルタミン作動性ニューロン・GABA作動性ニューロンで遺伝子発現変動
CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集では、編集過程で生じる「ゲノムの傷」がしばしば問題になるため、研究グループは、外部から入った遺伝子が残留することなく、父方・母方由来の染色体への影響が小さいと思われる手法を用いて余剰染色体の除去を行い、その細胞だけを増殖させた細胞株を樹立しました。
作製した細胞株の父方・母方由来染色体に傷がついたかどうかを確認するため、間違って傷つけられてしまう可能性が高いと予想された11か所を解析したところ、いずれのゲノム領域においても、父方・母方由来の染色体が無傷であったことが確認されました。
次に研究グループは、作製した細胞株を用いて大脳を模したオルガノイドを作製し、解析を行いました。Dup15q症候群の神経発達の異常は出生前から生じていることが予想されたため、発生過程の脳を模した大脳オルガノイドの各細胞種における遺伝子発現変動を調べました。その結果、グルタミン作動性ニューロンや、GABA作動性ニューロンにおいて、この病気の神経機能異常に関わる遺伝子発現変動が起きている可能性があるとわかりました。
研究グループは、作製した細胞株が、Dup15q症候群の病態解明や創薬研究において有用なツールとなることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)