けいれんや筋力低下など重篤な症状が徐々に進行
大阪大学を中心とした研究グループは、ミトコンドリア病の代表的疾患であるリー(Leigh)症候群のマウスを用いて、「ミトコンドリア移植」という新たな治療法を開発したと発表しました。
ミトコンドリア病の多くは、遺伝子の変異によりミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる遺伝性疾患です。リー症候群は、乳幼児期に発症するミトコンドリア病の1つで、発達の遅れや退行(それまでできていたことができなくなること)、筋力低下、呼吸困難、けいれんといった重篤な症状が徐々に進行します。生後6か月までに発症した場合は特に重篤な経過を辿り、発症後数年で命に関わることもありますが、これまでに有効な治療法は存在しません。
研究グループは、血液・免疫学的な観点からこの病気に対する有効な治療法を開発するため、リー症候群のモデルマウスである「Ndufs4ノックアウトマウス(以下、ミトコンドリア病マウス)」を用いて研究に取り組みました。
全身のさまざまな細胞に健康なミトコンドリアが移入
研究グループはまず、健康なマウスの骨髄をこのミトコンドリア病マウスに移植しました。その結果、病気の症状が緩和し、寿命が延長することが明らかになりました。
そこで、骨髄移植を受けたミトコンドリア病マウスを詳しく調べたところ、全身のさまざまな細胞にドナーマウスの健康なミトコンドリアが移入していることがわかりました。このことから、骨髄移植された健康な造血細胞のミトコンドリアが、ミトコンドリア病マウスの細胞に移入し、寿命延長に寄与したのではないかという仮説が考えられました。
研究グループはこの仮説をもとに、健康なミトコンドリアを取り出してミトコンドリア病マウスに移植しました。すると、ミトコンドリア病マウスの神経機能が改善しただけでなく、エネルギー消費が高まり、寿命も延長されました。次に、開発されたバイオ製品であるヒトミトコンドリア(MRC-Q)を用いて、このマウスに異種間のミトコンドリア移植を行ったところ、マウスの神経症状が改善し同様の結果が得られることがわかりました。
研究グループは、この研究成果は、今後、リー症候群を含む、ヒトのミトコンドリア病患者さんに対する治療法の開発に大きく発展する可能性を秘めている、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)