筋力低下や筋委縮が進行、徐々に運動能力が衰える疾患
バイオジェン・ジャパン株式会社は2024年12月27日、「クアルソディ(R)髄注100mg」(一般名:トフェルセン)について、SOD1遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制を適応症として、製造販売承認を取得したことを報告しました。
クアルソディは、遺伝的原因を標的とするALS治療薬として日本で初めて承認されました。
ALSは、筋肉の運動をコントロールする脳と脊髄の運動ニューロンが変性・消失していく進行性の神経変性疾患です。次第に筋力低下や筋委縮が進行することで、徐々に運動・発話・摂食などの能力が衰え、最終的には呼吸も困難になるなど命に係わることもあります。
多くのALSで、発病の原因は今のところ不明ですが、ALS患者さんのうち、15%以上が遺伝子変異によるものと考えられています。これまでにALSの発症に関わる遺伝子として複数の遺伝子が明らかになっており、SOD1遺伝子の変異(SOD1-ALS)はALS患者さん全体の約2%に関わっているとされます。日本ではSOD1遺伝子変異が最も多く、約30%を占めています。
SOD1-ALSでは、SOD1遺伝子の変異によって、異常なSOD1タンパク質が作られ、その構造に誤った折り畳みが生じます。異常なSOD1タンパク質は身体に有害となり、運動ニューロンを変性させます。今回承認されたクアルソディは、SOD1のmRNAに結合するように設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)で、異常なSOD1タンパク質の生成を抑制します。
重大な副作用は、脊髄炎・神経根炎・視神経乳頭浮腫・無菌性髄膜炎
今回の承認はSOD1-ALS患者さんを対象にクアルソディとプラセボを比較した第3相試験(VALOR試験)と非盲検の長期継続投与試験の結果に基づいて行われました。
VALOR試験では、疾患進行が急速な患者さんの投与28週時点のALSFRS-R(ALS患者さんの機能を評価する指標)合計スコアの開始時点(ベースライン)からの変化量を主要評価項目としました。クアルソディを投与したグループは、プラセボのグループよりもALSFRS-Rの低下は小さい傾向がありましたが、統計学的に有意な差は示しませんでした。
しかし、非盲検長期継続投与試験と合わせて解析をした結果、クアルソディを投与したグループは、プラセボのグループよりも、ALSFRS-R合計スコアのベースラインからの変化量が小さい傾向にあり、また、死亡または永久人工呼吸器装着となった割合が、クアルソディ投与のグループで低い傾向が示されました。
これらの結果から、極めて希少な進行性疾患であり治療選択肢が非常に限られているSOD1-ALSに対して、本剤の有効性が期待できると判断されました。
クアルソディを投与した人に見られた重大な副作用として、脊髄炎(3.4%)、神経根炎(2.7%)、視神経乳頭浮腫(4.8%)、無菌性髄膜炎(4.1%)がありました。その他5%以上の人に見られた副作用は、頭痛(13.6%)、髄液細胞増加症(8.2%)、錯感覚(6.1%)、CSFタンパク質増加(22.4%)、CSF白血球数増加(14.3%)、四肢痛(17.7%)、筋肉痛(10.2%)、疲労(5.4%)、処置による疼痛(6.8%)でした。
クアルソディは、SOD1遺伝子の変異を伴うALSに係る効能・効果に対して、2023年4月に米国で迅速承認、2024年5月に欧州で特例的条件下での承認、2024年9月に中国で条件付き承認されています。その他の地域においても各国の規制当局との検討が継続されています。(遺伝性疾患プラス編集部)